この数年間で、化学産業の研究開発を中心にマテリアルズ・インフォマティクス(以下MI)の導入・推進が急速に拡大しています。MIの認知度の向上とともに、多くの企業がMIの導入から「組織的推進」という次なる段階に進んでいます。これまで個別プロジェクトでの導入が中心でしたが、今やデータ駆動型のアプローチが企業全体の研究開発プロセスに深く浸透し始め、この科学的アプローチが、研究開発プロセス全体に浸透しつつあり、その効果が広く認識され始めています。
本記事は、2024年9月30日に開催した、マテリアルズ・インフォマティクスの祭典「MI Conf 2024」のイベントハイライトをお届けするレポートです。MI Conf 2024では、最先端のMI研究に携わるアカデミアの研究者や、企業でMI推進をリードする研究者・ビジネスリーダーなど実に1400名を超える方々が一堂に会し、技術的な側面だけでなく組織推進的な側面に重点を置き、幅広い背景を持つ参加者に成功と失敗の経験を共有いただきました。
カンファレンスの概要
- イベント名称:MI Conference2024(MI conf2024)
- 開催日時:2024年9月30日(月) 12:00〜17:30
- 参加形式:オンライン
- 参加者:研究開発、研究企画、DX推進に関わる方、データサイエンティスト、学生等
今年で第2回目となる、マテリアルズ・インフォマティクスに特化した最大の祭典「MI Conf 2024」を、9月末オンラインにて開催いたしました。「MI推進の先駆者が語る、成果が出るまでの舞台裏」にフォーカスを当て、まさにMI実装に取り組むパイオニアの方々に登壇いただき、技術面・組織面双方の課題に対して気づきを得られる基調講演、パネルディスカッションを実施いたしました。
昨年に続き、約1400名の研究開発者やDX推進担当者をはじめとした方にお申し込みいただき、大盛況のうちに終了しました。
オープニングトーク:データ駆動による素材産業の競争力強化に向けて
MI Conf 2024の開催にあたり、素材産業の現状やカーボンニュートラルに向けた取り組みなどについて国内、国外の状況を多角的な視点で解説いただき、そのうえでデータ駆動型の材料開発の状況についてお話しいただきました。2024年時点における材料開発の現在地点をわかりやすく解説いただきました。
- 登壇者のご紹介
経済産業省製造産業局 素材産業課 革新素材室 課長補佐 / 横山 康之氏
基調講演 1:MI普及をきっかけに科学的考察を深化させる
「MI普及をきっかけに科学的考察を深化させる」をテーマに、MOTコンサルティング株式会社の神庭 基氏にご登壇いただき、「そもそも、今MIに取り組むべき理由は何か」という本質な問いへの考えや、組織として科学的考察を深め、研究開発をより高度なレベルへ引き上げるためのヒントについてお話しいただきました。
- 登壇者のご紹介
MOTコンサルティング株式会社 代表取締役
神庭 基氏
基調講演 2:データ駆動型材料設計のためのAI技術の動向と展望
「データ駆動型材料設計のためのAI技術の動向と展望」をテーマに、機械学習の理論・アルゴリズム研究の成果が難関国際会議に数多く採択され、材料分野に関するAIを用いた実践研究も進められている、名古屋大学大学院工学研究科・教授の竹内 一郎氏にご登壇いただきました。
材料開発に従事している方向けに、入門としても非常にわかりやすい解説を交えながら、竹内氏より理論と実践の双方からデータ駆動型の材料開発についてお話しいただきました。
- 登壇者の紹介
名古屋大学大学院工学研究科 教授
理化学研究所革新知能統合研究センター チームリーダー
竹内 一郎氏
基調講演 3:製品開発者目線のMI推進 新設チームの1年を振り返る
「製品開発者目線のMI推進 新設チームの1年を振り返る」をテーマに、光学材料の開発に携わり、配合設計・物性測定・塗工プロセスの検討など幅広い業務を経験され、現在はDXおよびMIの推進を担当している、デクセリアルズ株式会社の高田 善郎氏にご登壇いただきました。
高田氏は昨年のMI Conf 2023に参加者としてご参加いただき、講演をきっかけに社内でのMI推進に挑戦しようと至った背景がございます。なかなか聞く機会がないMI導入初年度ならではの苦労や乗り越え方について、プロジェクトオーナーを担われていた立場から語っていただきました。
- 登壇者の紹介
デクセリアルズ株式会社
オプティカルソリューション事業部 商品開発部 OS開発課 統括係長
高田 善郎氏
基調講演 4:MI推進のアンチパターンとその回避方法
「MI推進のアンチパターンとその回避方法」をテーマに、神戸大学大学院システム情報学研究科 助教を経て、現在はMIについて社外協業を通じた先端技術の獲得と社内ワークフローへの実装を推進している、JSR株式会社の大西 裕也氏にご登壇いただきました。ありふれた成功事例ではなく、よく陥りがちな失敗パターンとその乗り越え方について、MI推進チームの組織構築から運営、組織浸透などの実体験に基づいた形でお話しいただきました。
- 登壇者の紹介
JSR株式会社
リサーチフェロー
RDテクノロジー・デジタル変革センター マテリアルズ・インフォマティクス推進室 次長
大西 裕也氏
基調講演 5:日常的な材料実験を補助するための生成AIとラボオートメーション
「日常的な材料実験を補助するための生成AIとラボオートメーション」」をテーマに、実験化学や高分子材料、マテリアルズ・インフォマティクス、ロボット実験を専門とし、幅広い材料分野にわたる研究を進めている東京工業大学(現・東京科学大学) 物質理工学院 材料系 助教の畠山 歓氏ご登壇いただきました。実際の事例を交えながら、材料実験の自動化における最新技術など、今後の材料研究における革新的なアプローチについてお話しいただきました。
- 登壇者の紹介
東京工業大学(現・東京科学大学)
物質理工学院 材料系 助教
畠山 歓氏
基調講演 6:全社研究部門へのMIの展開とR&D DXに向けて
「全社研究部門へのMIの展開とR&D DXに向けて」をテーマに、セラミックスや半導体、電池などの分析・シミュレーションを手がけ、現在はDXとMIの推進を担当されている、旭化成株式会社 上席理事の河野 禎市郎氏にご登壇いただきました。全社R&D DXに取り組んだご経験から、「管理職や経営層の立場から見た、MI推進の組織内浸透に向けた取り組み」から、そのための戦略や具体的なヒントについてお話しいただきました。
- 登壇者の紹介
旭化成株式会社
研究開発本部 イノベーション戦略総部 上席理事
河野 禎市郎氏
パネルディスカッション:大企業と中規模企業それぞれのMI導入ステップ/ 経営層や現場研究者の巻き込み方
パネリストに、旭化成株式会社 上席理事の河野 禎市郎氏、MOTコンサルティング株式会社 神庭 基氏をお迎えし、『大企業と中規模企業それぞれのMI導入ステップ/ 経営層や現場研究者の巻き込み方』をテーマに、「MI導入のためのステップ(大企業・中堅企業)」、「MI推進のための社内の巻き込み戦略」についてディスカッションしていただきました。
ファシリテーターとして、MI-6株式会社のCOOである入江が登壇し、ディスカッションボードに当日挙がった意見を整理しながら進行いたしました。MI推進が実施できないそもそもの理由や、目標をどのように設定するのかなど。当事者として両氏で共感する場面もありながら、多角的かつリアルな視点での意見が多く飛び交ったディスカッションとなりました。
- 登壇者の紹介
パネリスト:河野 禎市郎氏 / 神庭 基氏
ファシリテーター:入江 満
ご参加者の声(事後アンケートより)
カンファレンス当日参加者のアンケートでは90%以上の方より満足と回答をいただきました。
- 他社のMIプロジェクトの大まかな状況が把握できて非常に有益でした。特に各社においてMIを社内展開する際の課題と考え方を共有していただき、とても参考になるとともに励みにもなりましたので、非常に良かったです。
- 実体験としてのMI導入時の困りごとを聞くことが出来、貴重な機会となりました。
- MI推進の具体的な事例に着目した講演が多く、大変参考になりました。ありがとうございました。MIの社内普及に対して外部の活動や意見を聞くことができ、非常に有益でした。
最後に
皆様、いかがでしたでしょうか。
MIはまだ発展途上の分野であり、参考にできるモデルケースやベストプラクティスが限られています。そのため、登壇者による実践的な経験の共有は非常に貴重です。成功・失敗の要因に関する実地での知見を共有することにより、異なる組織で同様の課題に取り組む人々の間で共感が醸成されることを期待しています。その結果として、知見・経験を共有する輪が広がり、業界としてMIの取組みが加速度的に発展していくことを目指しています。皆様の日々の研究活動のお役に立つことができていれば幸いです。