MI-6株式会社では、マテリアルズ・インフォマティクスに特化したカンファレンス「MI Conf 2024 - Materials Informatics Conference -」(以下、MI conf 2024)を2024年9月30日に開催いたしました。
本記事では、MI conf 2024より、MOTコンサルティング株式会社 代表取締役 神庭氏の講演内容の一部を抜粋してご紹介いたします。
神庭 基
Motoi Kamba
MOTコンサルティング株式会社代表取締役
1982年に旭硝子株式会社(現AGC株式会社)に入社し、中央研究所にてフッ素樹脂の開発に従事。その後、化学品カンパニーに異動し新規事業や研究開発の推進を行う。2009年から情報システムセンターのセンター長を務め、「攻めのIT部門」の構築に尽力。2016年より知的財産部で部長を歴任し、「シェアードサービスから戦略部門」への変革を実現。2019年より技術本部企画部にて「データ駆動型研究開発」を推進され、AGC株式会社を定年退職。
現在はMOTコンサルティング株式会社を設立し、研究開発テーマの創発、マテリアルズインフォマティクスの普及活動を支援。
はじめに
神庭氏は、AGC株式会社で研究開発部企画グループリーダー、情報システム部門長やグローバルITリーダーなど多岐にわたる役職を務め、現在は研究開発のDX普及や支援に尽力されています。本講演では、材料開発を取り巻く競争や環境が激しく変化する中で、今、MIに取り組むべき理由や、MIと研究開発の本質的価値について、神庭氏の豊富な経験を交えて語っていただきました。
研究開発プロセス全体像とMIの位置づけ
MIは研究開発活動のあくまでも一部であり、研究開発全体を通じて、成果を最大化するための1つのツールであると捉えています。例えば、新規テーマの選定やマネジメント手法の見直しなどを含めて、研究開発プロセス全体を支援することで、研究開発の成果に繋げることができると神庭氏は語っています。
(MOTコンサルティング株式会社の許可を得て転載しております)
MI普及活動の目的と科学的考察の深化プロセス
「データ駆動型の研究開発」とは、データが全ての答えを出すのではなく、仮説を「データ」で検証し、「データ」解析により気づきを得る研究開発です。
その中で、知見を活かした仮説をデータで検証する→新たに得られた気付きを考察し、考察結果を実験で検証する→実験でデータを蓄積し、仮説が合っていれば目標の特性に近づく、このサイクルを回すことが科学的考察の深化のプロセスであると神庭氏は考えています。
(MOTコンサルティング株式会社の許可を得て転載しております)
科学的考察を深化させる第一歩
科学的考察を深化させるためには、目標特性を明確にした上で、関連する原料・物性や条件を可視化することが第一歩となります。意外と、頭の中では分かっていても、いざ書き出してみると漏れがあることが多いため、複数人の知見を共有して視点を広げ、気付きを深めることが効果的です。なお、官能評価を伴う開発では、複数の物性の複合効果がある場合が多いので、それぞれの物性を分解して検討することも必要です。
そして、このようなデータに基づいて科学的考察を行う際には、構造化されたデータに基づいて、複数人が「その場で」議論できることが非常に重要です。例えば、「このデータについてはすぐにグラフが書けないので、来週グラフを書いてから考察しましょう」となるとスピード感が出ません。
これに対して、構造化されたデータがあれば、1〜2分で縦軸・横軸のデータを選んでグラフを作ることができるので、仮説が合っているか、違うのであればなぜか、特異点の条件は何か・・・など、気付きをその場で議論しながら深めることができます。これにより、開発スピードアップの実感が得られるため、この一連の流れにより「MIをきっかけに科学的考察を進化させる」ことが重要であると、神庭氏は語っています。
(MOTコンサルティング株式会社の許可を得て転載しております)
MI普及に必要なアクション
MI普及のためには、特に下記の2点が重要です。
1. MI(データ解析)の有用性を信じてもらう
最初に重要なのが、「MI(データ解析)の有用性を信じてもらう」ことです。リーダー・所長・部長クラスのベテラン研究者の中には、「MIやAIは信じない、自分で考えろ」という方も当然いると思います。ただし、MIを使用しても自分で考えることには違いなく、単に良い道具を使うだけであり、目的は同じです。データを解析して考察することを反対する人はいません。まずはその前提を理解してもらうことが重要であり、この部分の支援に時間を掛けることも多くあります。
2. ツールを活用し、デジタル化を推進する
「1. MI(データ解析)の有用性を信じてもらう」の後に、「その場で」議論するためのデジタル化を推進することが必要となります。
上記2点のアクションのために、まずは現状を理解し、どのように進めると自社としてやりやすいかを考え、ロードマップの概略を作成することが効果的です。なお、詳細なロードマップを作成しても、作成自体が大変である上、想定通りには行かないことが多いことに注意が必要です。そのため、まずは概略を作った上で、第一歩をどこから進めるか検討することをお勧めします。
また、掛け声だけでうまくいくケースは少ないので、そのための人材のアサインや、自発的に行う方を後押しすることも重要です。
(MOTコンサルティング株式会社の許可を得て転載しております)
まとめ
MIの導入は特別なことではなく、研究開発の基本をより効果的に進めるための手段です。科学的考察を深化させることは研究員として当たり前のことであると思っています。
また、デジタル技術を活用することで生産性を向上させ、働き方改革に繋げることも、十分に価値があることです。働きがいのある職場にすることで、優秀な人材が集まる・優秀な人材に成長する、その結果良い開発ができ、企業価値が向上する、これを目指してみませんか、と神庭氏は最後に語りかけていただきました。
編集部メッセージ
神庭氏の講演は、これからMIを導入・普及しようとする企業だけでなく、既にMIの取り組みを進めている研究者やマネジメント層にも、多くの示唆を与えてくれるものでした。特に「MIの導入は特別なことではなく、研究開発の基本を深化させるための手段」という言葉は、多くの研究者や現場の声に寄り添うものであり、私たちの心にも深く響きました。MIは単なるデジタルツールではなく、科学の本質を追求するためのものであり、それを活用することで研究者の創造力をさらに解放することが出来ると信じています。
また、「目標特性を明確にし、データを構造化し、その場で議論を深める」という一連のプロセスは、単に研究開発の効率を上げるだけでなく、研究者同士のコラボレーションを促進し、新たな気づきやアイデアを生む原動力になるはずです。
神庭氏がこれまで歩まれてきた道のりには、試行錯誤を繰り返しながらも、研究者とデータ、そしてデジタル技術をつなぐ架け橋を築き上げてきた深い情熱と献身があります。私たちは、そんな神庭氏の知見と想いに触れる機会をいただけたことに、深く感謝しています。そして、その活動に心から敬意を表します。
神庭氏が語った「MIの導入は働き方改革や企業価値向上にもつながる」というメッセージは、これからの時代における研究開発の在り方そのものを象徴していると感じます。私たちmiLab編集部も、MIを「単なる技術」ではなく、「研究者がより自由に、より創造的に働ける環境を作るためのパートナー」として位置づけ、情報発信を通じて支援を続けていきたいと思っています。
これからMIの導入を検討している企業や組織、そしてすでにMIに取り組んでいるすべての方々が、今回の講演をきっかけに新たな一歩を踏み出せることを心より願っています。