はじめに
この数年間で、ものづくり産業の研究開発においてMIの導入・推進が急速に拡大しています。一部の研究チームにおける試験導入だけではなく、MIの全社展開に着手する企業も目立つようになりました。
今年で第2回目となる、マテリアルズ・インフォマティクスに特化した最大の祭典「MI Conf 2024」が、9月末オンラインにて開催いたしました。「MI推進の先駆者が語る、成果が出るまでの舞台裏」にフォーカスを当て、まさにMI実装に取り組むパイオニアの方々に登壇いただき、技術面・組織面双方の課題に対して気づきを得られる基調講演、パネルディスカッションを実施いたしました。
昨年に続き、約1400名の研究開発者やDX推進担当者をはじめとした方にお申し込みいただき、大盛況のうちに終了しました。
当日の詳しいハイライト・レポートは以下の記事よりご覧ください。
Q&Aセッション
多くのセッションで参加者の方から積極的にご質問いただきました。
本記事では、「日常的な材料実験を補助するための生成AIとラボオートメーション」をテーマにご講演いただいた東京科学大学の畠山氏と、「データ駆動型材料設計のためのAI技術の動向と展望」をテーマにご講演いただいた名古屋大学大学院工学研究科の竹内氏の質疑応答のご紹介をいたします。
畠山 歓
Kan Hatayama
東京科学大学 物質理工学院 材料系助教
博士(工学)・早稲田大学(2018年)。
2018-23年まで早稲田大学 応用化学科、2023年より東京工業大学(現・東京科学大学) 物質理工学院に所属。
研究キーワード: 実験化学、高分子材料、マテリアルズ・インフォマティクス、ロボット実験。
関わった研究テーマの例: 高分子固体電解質、低誘電材料、高熱伝導材料、半導体エッチング材料、リチウムイオン電池、有機二次電池、液晶配向。
最近のブーム: 大規模言語モデル
竹内 一郎
Ichiro Takeuchi
名古屋大学大学院工学研究科 教授理化学研究所革新知能統合研究センター チームリーダー
2000年名古屋大学にて博士(工学)を取得。三重大学助教、名古屋工業大学准教授、教授等を経て、2022年4月より現職、データ駆動型人工知能の基盤となる機械学習の研究と実践に従事。
機械学習の理論・アルゴリズム研究の成果は難関国際会議に数多く採択され、国内外から注目を集めている。また、実践研究として、工学分野、生命分野、材料分野の研究開発にAI・機械学習を活用するプロジェクト研究を数多く進めている。
2024年より、科学技術振興機構(JST)のさきがけプロジェクト「AI・ロボットによる研究開発プロセス革新のための基盤構築と実践活用(研究開発プロセス革新)」の研究総括を務めている。
LLMが発展すると、将来的には各企業で自動・自律実験が実現できるようになるとお考えでしょうか?
ハードウェア(ロボットアーム)の性能はまだ必ずしも高くなく、進歩速度もソフトウェアほどは高くないので、少なくとも今後10-30年程度は、人間による実験研究が主流ではないかと考えています。特に固体、フィルムなどの扱いが難しい為です。
マルチモーダルなLLMの支援・助言のもと、人間が実験を行うシステムは、随所で普及する可能性はあると個人的には考えています。
自動化システムはどれぐらいのコストで組み上げられたのでしょうか?
分注装置は10万円程度、ロボットアームは30万円程度のコストでした。 工作やシステム構築のプログラミングができる人材が必要です。
有望領域を計算でデータ生成させるということですが、そのデータの信頼性の担保をどのようにすればよいでしょうか。
潜在空間でサンプリングするので実在するデータではないですが、それをデコードしたときに妥当な分子であることを保証したくなるということは理解できます。我々はこれまで行ったことはないですが、デコードしたものが分子としての条件を満たさないようなものであればその点は使わないというようなアプローチもあると思います。
生成AIベース、潜在空間でのMIの検討は計算科学がメインでしょうか。生成AIや潜在空間が活用された事例はありますでしょうか。
シミュレーションとの融合例が多いですが、実際に実験で物性計測をした例もあります。潜在空間を作るときには物性値がいらないので、物性値が既知のものがそこまで多く必用というわけではありません。
分子生成に用いる深層学習の評価は一般的にどのような指標を用いるのでしょうか?
エンコーダ・デコーダの評価は再構成誤差で行います。入力した分子がどれだけ再構成されるかという評価基準になります。
どうして非線形のブラックボックスモデルを使用するのでしょうか。
説明では図示のため2次元にしましたが実際はもう少し大きな次元(例えば32次元)です。ニューラルネットワークでなくてもよいですが、ニューラルネットワークを使うとより再構成能力の高い低次元空間を作れることが知られています。
最後に
いかがでしたでしょうか。本記事では、MI Conf 2024にて「日常的な材料実験を補助するための生成AIとラボオートメーション」をテーマにご講演いただいた東京科学大学の畠山氏と、「データ駆動型材料設計のためのAI技術の動向と展望」をテーマにご講演いただいた名古屋大学大学院工学研究科の竹内氏に、参加者の方からいただいたご質問の回答を一部抜粋してご紹介いたしました。
その他のQ&A、講演のアーカイブ動画は以下で無料公開していますので、ぜひご覧ください。