鈴木 真一郎Shinichiro Suzuki
  • 藤森工業株式会社
  • 研究所 研究推進部 企画推進グループ

前職にて光学系ポリマーフィルムの研究開発・上市、知的財産業務を経験。
現職にて知的財産戦略の立案・実行、新規テーマの企画推進業務に携わる。
現在は新規事業の企画推進と共に研究所のDXに広く携わっており、具体的なDX推進施策の実行を進めている。

塚田 高士Takashi Tsukada
  • 藤森工業株式会社
  • 研究所 要素技術開発部 粘接着技術開発グループ

入社後、偏光板プロテクトフィルムの生産改善業務に従事。その後研究所へ異動し、現在まで各種粘着剤開発に携わる。
2021年MI導入時にトップバッターとして検討を実施。
現在は業務内でのMI活用を進めるとともに、研究所内へのMI推進活動にも関わっている。

藤森工業株式会社は、1914年の創業以来、100年以上にわたり、「包む」から拡がる技術と、人と社会に寄り添う「つつむ心」で、多様な製品・サービスを提供。現在は、ウェルネス、環境ソリューション、情報電子、産業インフラの事業領域において、次の世代に誇れる未来をつくり続けています。

要素技術を高める技術開発と新製品開発に取り組む、同社の研究開発の中心的拠点である研究所では、2021年に、マテリアルズ・インフォマティクス(以下MI)導入の検討を開始し、同年にmiHub®を導入しました。その背景と今後の展望について、研究推進部 企画推進グループの鈴木真一郎様と要素技術開発部 粘接着技術開発グループの塚田高士様にお話を伺いました。

“いろいろな分野に挑戦する”ことが当社の強み

企画推進グループの主な役割をお聞かせください。

鈴木

研究所全体のDXを推進しています。当社がDXに注力し始めて約3年が経過しました。当社のみならず化学業界全体でDXが盛り上がっていますが、その要因として“社会の価値観の転換”があると感じています。これまでは大量消費社会でしたが、これからは量産するというだけではなく、環境にも配慮し必要な物を効率的に作る必要があります。また、将来を予測し、お客様にソリューションと共に提供するという流れに変わってきていると感じます。精密に効率よく物を作るという流れ、そしてデジタル技術の急激な進化が、化学業界のDXを加速する背景にあると思っています。

世の中の流れに合った製品を先駆けて作るためには、当然、優れた研究開発力が求められますが、それを担う研究開発者は多忙を極めています。研究開発のテーマを遂行するにあたっては実験も必要ですし、実験の前準備や実験後のまとめも必要です。特許も書かなければなりませんし、事務的な仕事だってあります。また、技術的なやり取りなどが必要となった時には、顧客対応もこなす研究開発者もいるので、実験の工数が足りなくなることもしばしばあります。

塚田

当社ではスピード感をもって多くの製品開発をしており、工数には限りがでることもあります。その一方で、他社に先駆けて製品をリリースする使命があります。

鈴木

我々は有限なリソースの中で、将来のテーマ創出に向けて広く検討を行うためにも、多くのテーマを扱っています。“たくさんのテーマの種をまく”段階においては、研究開発者の負担はどうしても大きくなってしまいがちですが、企業としていろいろな分野に挑戦していることは同時に、当社の強みであると自覚しています。

私たちの製品はプラスチックフィルムが中心ですが、生活用品の包装、医療関係の包装、電子関係の部材のプラスチックと、現在販売している製品の延長線上の検討のみならず、“次世代のプラスチックのあり方”を追求し、研究開発を進めています。フットワーク軽く新たな研究開発を行い、そしてアウトプットするという点が研究開発部門の強みといえます。

塚田

当社には、お客様のご要望に合わせてカスタマイズしてきたという歴史があるので、その対応力の高さも強みだと自覚しています。先ほど鈴木が説明した、研究員が直接お客さん対応をすることも特色であり、強みといえますね。どれだけスピーディにお客様の要望に応えるかによって印象も変わってくるので、開発のスピードについても重要視しています。

配合検討に強く、ベイズ最適化ができるソフトウェアを検討

miHub®の導入背景をお聞かせください。

鈴木

ここ数年、業界専門誌において「MI」という言葉が出てくるようになり、各社が様々なサービスを出してきていました。MIについては注目していましたが、経営陣からの後押しもあり、本格的なMI導入の検討を開始しました。先ほども申し上げたように、将来のテーマ創出のために“たくさん種をまいている”ので、その過程で蓄積されていった過去の知見をしっかり整理して後世に伝える必要性があり、研究知見蓄積の面からもMIが期待されていました。経営陣からの話をうけ、数社のMIソフトウェア提供企業とお話をして比較検討を始めました。

miHub®︎選定までの流れを教えてください。

鈴木

私の方で「どういったことに使えるのか」「アルゴリズム」「使いやすさ」「価格」などを一覧表にして、まずは社内で議論を進めていきました。そこで数社に絞ってから、詳細について比較検討をはじめることにしました。

当社はプラスチックの加工を手がけることが多い会社ですが、分子設計よりもポリマーの物性や、処方の配合検討の割合が高いため、まずは、当社のスタイルにあった“配合検討に強いソフトウェア”という観点で検討しました。思ったよりも分子設計や分子軌道の計算をするソフトウェアが多くありましたね。

導入前の調査の段階では、MIの領域については素人だったこともあり有識者や既にMIを導入している企業の方にヒアリング調査を行いました。その結果、数ある計算アルゴリズムの中でも、ベイズ最適化を用いると処方検討に有利であり、かつMIの中でもベイズ最適化がもっとも成果が出やすい手法であることがわかりました。そこで、ベイズ最適化ができるソフトウェアという条件を加えて検討することにしたのです。ベイズ最適化ができて、かつポリマーの実績があるという条件で見ていくと3社程度に絞られました。

ピックアップした3社でさらに検討を進めた結果、研究者自身が使いやすいものがいいと考え、MI-6のMIツールであるmiHub®︎を選択しました。研究開発を行っているメンバーにはプログラマー的な仕事をしてほしい訳ではなく、実験を効率化するためにMIを使ってほしいので、インターフェイス(見た目)や使い勝手がいいものを選びたい、と考えたからです。ちなみに、miHub®︎に当社の実験が適合するのか分からないというときや、少し高度なこともやってみたいという時は、サポートをしてくださっているMI-6カスタマーサクセスのデータサイエンティストの方に相談しています。

MIには、始める前のハードルの高さがあると言われていますが、それはインターフェースの問題だと捉えています。例えばMIを検索するとPythonの画面が出てきますが、Pythonにはプログラミング言語がたくさん出てくるので、それを見てアレルギー反応を起こす人がいるのももっともだと思います。しかしインターフェースがたとえばGoogleの検索画面のようにシンプルなものであれば、それに対するハードルは下がると思います。miHub®︎のインターフェースはそれに近いですよね。知識的な部分は、あとで身につければよいのではないかと考えています。

活用(既存のデータを最大限使う)と探索(新しい配合や材料を試みる)のバランスをとりながら、効率的に実験空間を網羅できることが「ベイズ最適化」の強み

運用開始までの具体的な流れ

miHub®︎選定後、運用開始までの流れを教えてください。

鈴木

まず、ここにいる塚田に“最初のユーザー”になってもらいました。やはりトライアルについては、ある程度若くて、柔軟性や積極性がある方に声をかけるのが良いだろうという判断がありました。比較的研究所に長くいる方よりも、若い方のほうが“やってみようかな”と前向きに捉えてくれる方が多いように感じています。

塚田が担当するテーマは、実験のルーチンが確立されており、ある程度の実験データの蓄積がありました。塚田自身も実験検討に長けており、積極性が高く、フットワークもよい人材なので、“何かやってくれそうだ”という期待値も高かったですね。実際に、初期のMI検討においてはかなり高速で実験を回してくれたので、“最初に分かりやすい成果を出す”という大変な役割でしたが、それを全うし、“先駆者が分かりやすい成果”を出してくれました。社内でもアピールしやすい成果になったと思います。

とはいえ、実験内容や研究内容によってMIの向き・不向きがあるので、塚田の成功例があっても「そのままは使いづらい」という意見もありました。しかし塚田の成果発表などを聞いて“やってみようかな”と思ってくれる人も出てきたり、しばらくしてお声がけをすると「自分もやってみたい」と言ってくれる方も現れました。過去の実験なども共有しているので、そういったものにアクセスすると、“自分もやってみようかな”と思ってもらえるのだと思います。

最初のユーザーとして指名されて、どのように感じましたか。

塚田

検討段階から耳に入っていましたが、当初は“MIってなに?”と思っていましたし、“どうやらこれを使うと良いらしい”という程度の認識しかありませんでした。「トライアルでやってほしい」と言われたときも、“手間がかかるな”と思っていましたが、実際に使ってみると、自分が考えられなかった条件をmiHub®︎が提案することもあり、そこに面白味を感じるようになりました。

MI活用に一定の手応えを感じてから、鈴木から「社内に浸透させてほしい」という話があって、喜んで引き受けました。個人的には、miHub®︎を使う仲間が増えると嬉しいと思いました。それによって情報交換が増えて、miHub®︎の使い勝手を良くしていくという感覚です。自分の周りに「使ってみたら」と提案するだけでグループや所内の効率が上がりますし、その人とのコミュニケーションも取れるようになると考えていました。

鈴木

それも狙い通りでした。塚田は細かい使い方も周りに伝授してくれていましたし、その点でも、miHub®︎普及にかなり寄与してくれたと思っています。

研究開発者を主体に置いたトライアル

一般的にはインパクトのあるテーマからトライアルをはじめるという企業が多いなか、そうではなく研究開発者を主体に置き、MIに対するモチベーションの高い方のテーマを選んだと伺いました。理由はどのようなものだったのでしょう。

鈴木

研究者のなかには、MIを“やりたい”という方も居ますし、“気が進まない”という方も居ます。研究テーマへMIを適応してほしいと依頼する際に「会社から注目されているテーマだからやってほしい」と依頼してしまうと、他の方が“自分の方がやる気があるのに選ばれなかった”と感じてしまったり、“MIは気が進まないけれども重要テーマだからやらなければならず重圧を感じる”といったネガティブな感情が生まれてしまう可能性があります。どのテーマが重要か、または適合性があるのか、実際に結果が出るのかというのは、やってみなければ分からない部分がありますし、MIのようなAIツールは人との相性もあります。ですから、まずはMIに対するモチベーションの高い研究開発者の案件から進める、という方法でここまで推進してきました。

まずは、手を挙げた人のテーマにMIを使ってもらってMIに慣れていただくことが重要と考えています。その際、最初にMIを使うテーマの重要性は必ずしも会社にとって高くなくとも良いかと考えています。いちどMIを使ったことがあると、それがMIユーザー個人の経験となり、次のテーマにも適応できるかどうかが分かるようになります。また、MIの有用性がわかれば、次の重要テーマにもMIを使ってみようとなります。そのため、MIを知っている人や触れる人を増やすことが重要だと思っています。スタートしたての頃は、費用対効果が合わないかもしれませんが、数年後には“MIを使わなければ勝てない世界’’、’’MIを使うのが当たり前の世界’’が来ると考えているので、今はそれに向けた準備段階という意味もあります。

miHub®︎を導入してどんな効果がありましたか?

塚田

やはり、スピード感が大幅にアップしていると実感しています。トライアルでも、miHub®︎によって“どれくらいスピードが上がったのか”という点で評価をしましたが、もちろん数字の上でもスピードアップが示されています。また、miHub®︎を使うことで、検討期間を短くできるという実感も湧きました。

鈴木

案件にもよりますが、1.5倍から2倍に実験効率がアップしているケースもあります。実験のスピードアップもそうですが、miHub®︎でなければ気づけなかった実験条件も、ときどき見出すことができています。例えば“これらの素材をこの割合で混ぜるなんて、こんな配合条件は人間の頭では思いつかない”ということもmiHub®︎が推奨してくることもあり、なおかつそれが実際に良い成果を出すこともあります。実験のスピードアップは当初の目的であり、達成できればとても有益ですが、MIでしか見いだせない条件を見出すことができることがあるといった点も、miHub®︎の利点だと思っています。miHub®︎の導入により、実験自体の時短のみならず、実験データをMIにも載せられるような書式で蓄積することが一部の研究開発メンバーで定着しはじめています。実験データには失敗データも含まれますが、MIは失敗したデータも活かして次の推奨実験条件を提案してくれるので、失敗データも活用できる研究開発ができるようになりはじめたと感じています。

また、MIを活用していくにあたり、MI-6のカスタマーサクセスのご担当者様の支援は助かっています。テーマの打合せにおいて、実験の配合プロセスにおける温度や電荷割合の変数設定など化学系の実験検討者の目線からアドバイスをいただけるので、プロジェクトを二人三脚で進められているように感じます。実はシステム的な点よりも、ご担当者様の力添えをいただける点が一番のメリットと考えています。社内の力だけでは難しい点もMI-6に相談しながら進めることもありますし、これからもMI-6のサポートを推進力として活かしていきたいです。

“MIをEXCELのように使える研究所”を目指して

今後、どのようにmiHub®︎を活用していきたいと考えていますか。

鈴木

ユーザーを増やす、そして成果と実例を増やすことを目標として掲げています。当初は皆MIがどんなものなのか分からず、自分のテーマで活用できるのか否かが判断しづらいといった状況で、研究所内になかなか広がりませんでした。まず知っている人を増やすため、MIの情報を発信することを目的にイントラネット上にMIの特設ページを作りました。MI特設ページは、研究員であれば誰でも簡単にアクセスできるようにしており、研究員がMIの導入知識を得やすいようなコンテンツを置いています。また、MIの社内セミナーも一定期間ごとに開催しており、従来のMIを活用した成果報告や、MI-6にmiHub®︎のご説明をいただいたりしています。MIについて詳しい人を増やすという点においては、MI-6とのミーティングを活用しています。MIを使っているプロジェクトのミーティングにMIに興味がある人にも出席していただいており、“まだMIに触ってはいないけれどもMIを知っている”という人も増えています。

一方で、打合せに参加しないけれどもMIに触ってみたいという人もいるので、miHub®︎を触りたい人は運営に連絡をもらえば使用できるようにしています。なるべく垣根を低くして、その中で本格的にやりたい人が出てきたら積極的に使っていただければと思っています。そしてその中で実例が出た場合は、なるべく多くの人に共有するために、MIの社内セミナーの中で、発表をしてもらっています。研究所長がMIの社内セミナーを応援してくれていて、優れた成功事例は表彰対象にもなります。周囲の後押しもあり、“みんなでMIをやろう”という雰囲気づくりはできているのかなと感じます。

設定されている目標がありましたら教えてください。

鈴木

ユーザーの目標値については、厳密に人数を設定しているわけではありませんが、長期的な目線で、「MIをEXCELのように使える研究所」というスローガンを掲げています。5年後にはみんなが触ったことがあるという状態にし、10年後にはこのスローガンが達成できていればベストです。使用率や認知率はその段階で出てくるものと捉えています。この発想は決して荒唐無稽なものではないと思っています。たとえば、EXCELも数十年前には存在していませんでしたが、今はビジネスシーンにおいてほとんどの方が使えますよね。もしかしたら30年前の人も“EXCELを使うなんて荒唐無稽”と思っていたかもしれません。

鈴木様、塚田様、ありがとうございました!

※掲載内容は取材当時のものです。

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