自動車の快適な乗り心地や走行に欠かせない「防振ゴム」のグローバルサプライヤーとして、独自の技術力を世界に展開する株式会社プロスパイラ。“最高の品質で社会に貢献する”という使命のもと、80年以上にわたって培ってきたノウハウを活かし、モビリティ社会の進化を支えて続けています。
同社では、2022年の始め頃からマテリアルズ・インフォマティクス(以下MI)導入の検討を開始し、同年Hands-on MI®、2024年にmiHub®を導入いただきました。その背景と今後の展望について、材料開発部 部長 大迫様、材料開発部 材料設計課 課長 永田様、材料開発部 材料設計課 和田様、加藤様にお話を伺いました。
限られたリソースで勝つため、新技術による効率最大化が必要に
まずは、貴社の事業概要や主要製品のご紹介からお願いいたします。
株式会社プロスパイラは、ブリヂストンの防振ゴム事業部が事業譲渡を経て独立し、世界トップレベルの防振ゴム技術を基盤に事業を展開しています。自動車向けを中心に、建機や船舶、工業用空気バネなど多岐にわたる製品をグローバルに提供しています。
当社の強みは、確かな技術力に加え、原材料の調達から生産、物流までを自社で一貫して行う体制にあります。これにより、徹底した品質管理と安定供給を実現し、お客様の個々のニーズに合わせた製品開発が可能です。
防振ゴムは、エンジンやモーター、足回りなどに用いられ、振動制御を通じて快適性と安全性を支える重要部品です。エンジンや路面から伝わる大きな振動をゴムの弾性で吸収・減衰させ、快適な乗り心地を実現ーーそれが私たちプロスパイラの担う役割です。
ゴム材料の開発は、料理に例えられます。目的の料理の具材となる食材や調味料の組み合わせを考えるように、ゴムも多様な原材料を配合して作られます。私たちのミッションは、原材料の化学構造に着目し、「原材料をどう選択し、どう混ぜるか」という配合技術を緻密にコントロールすることで、目的の特性を実現することです。
最大の壁となるのは、特性間のトレードオフです。「ある特性を向上させれば、別の特性が低下する」という相反関係をいかにブレイクスルーしていくかという点は、技術的な難所であると同時に、技術者としての醍醐味でもあります。そして、その実現こそが私たちの使命だと捉えています。
ゴム材料開発を取り巻く環境や、当時の課題についてお聞かせください。
エンジンの改良やEVの普及により、車内環境の静粛性は飛躍的に向上しました。しかし、環境が静かになればなるほど、従来は気にならなかった微細な音や振動がノイズとして顕在化してしまいます。そうした振動領域までカバーする高度な性能を実現するには、構造上の工夫にとどまらず、ゴム材料そのものの新規開発が強く求められているのです。
さらに、社内環境の変化もありました。ブリヂストンからの独立により、かつてのような巨大な研究基盤を持たない中、限られたリソースで競争力を維持しなければなりません。
そうした環境下でも、「研究者として世界一を目指したい」という想いを、私は持ち続けています。しかし、従来通りの手法やスタイルではトップには到達できません。リソースが限られているからこそ、“新技術による効率の最大化”が必要でした。
現場視点でも、原材料探索における効率の悪さは大きな課題のひとつです。以前は専門商社からの材料の紹介が中心でしたが、提案された材料がすでに他社に特許化されており、性能が優れていても採用できないケースが多々ありました。
そこで、ゴム原料の枠を超えた探索を試みるものの、今度は候補が膨大すぎてどこから手をつければよいのか分からないという、“探索の壁”に直面していたのです。
本来であれば、市場にある既存材料の最適化と、まだ世の中にない理想的な分子構造の探索、この両輪を並行して回す必要があります。しかし、膨大な原材料のすべてを人間が俯瞰することは不可能です。「自分たちの知っている狭い範囲内だけで最適化しているのではないか」という課題感も抱えていました。
確かな技術力と圧倒的な熱量が決め手となった伴走パートナー
MI導入のきっかけについて教えてください。
2022年当時、同僚からの提案をきっかけにMIへの関心を持ちました。直感的に「これは面白い」と感じたのは、化学構造や配合といった定量化の難しい要素をデータとして扱えれば、今まで見えなかった新しい解が見つかるのではないかと考えたからです。これからの10年を勝ち抜くためには、新技術への挑戦が不可欠だという、元々抱いていた危機感とMIの可能性が合致し、MI導入に向けて動き出しました。
技術的な背景には、ブリヂストン時代から蓄積された膨大なデータを有効活用したいという想いがありました。
実はMIが普及する以前から、汎用ソフトを用いたデータ解析には取り組んできていたのですが、一定の成果はあったものの、既存の手法だけでは不十分でした。そうした中で、データを活用して理想的な化学構造を探索できるMIに魅力を感じ、可能性を見出しました。
MI-6をパートナーとして選定された決め手を教えてください。
社内にデータサイエンスの専門人材が不在だったため、単なるツール提供にとどまらず、コンサルティングからカスタマイズまで伴走してくれるパートナーを求めていました。主要なMIベンダーを調査した結果、候補はMI-6と、もう一社に絞られました。
最終的な決め手は、面談の際に感じた圧倒的な熱量です。「ここなら最後までやり遂げてくれる、一緒に走ってくれる」と、メンバー全員が確信しました。まずは1年間、やってみようと即決し、Hands-on MI®の導入に至りました。
技術面での決め手は、既存の枠内での最適化と枠を超えた未知の探索を両立できる点です。実績のある範囲からの探索はもちろん、化学構造と目的とする特性を紐づけるモデルから理想的な構造を逆解析することも可能です。この両輪を効率よく回せる点に大きな価値を感じたことも理由の一つです。
Hands-on MI®導入後のプロセスと成果についてお聞かせください。
まずは電気自動車向けの配合開発において、データサイエンスの活用からスタートしました。初年度のHands-on MI®のプロジェクトでは、自社の蓄積データをMI-6に解析いただきモデルを作成し、さらにコンサルティングを通じて互いにデータを精査しながら検討を進めました。これは、現在のmiHub®での運用にも通じる、協創的なプロセスです。
初年度のプロジェクトで成果が見えてきた中で、その他の領域でのMIの活用にも挑戦しようと思い、Hands-on MI®︎2年目のプロジェクトでは、テーマを配合開発から原材料探索へ移行して活動を進めていきました。従来、商社経由で入手する材料は詳細不明であることが多く、結果に対する科学的理由を特定できない点が課題でした。合否判定はできても「なぜ」が分からないため、トライアンドエラーを繰り返していたのです。
また、紹介頼みでは探索範囲がゴム関連に偏るという限界もありました。しかしMIを活用することで、データに基づいた具体的な候補が提示されるようになり、探索効率が劇的に向上しました。
ゴム業界の枠を超え、従来の手法では辿り着けなかった領域にまで手を伸ばせる点は、非常に大きな成果です。人間の経験則だけで探すよりも、はるかに早いというMIの効果を実感しました。
データ解析を通じて知見を深めた結果、原材料探索においては、現状を改善しうる材料が見つかるという明確な定量成果が得られました。製品への適用は然るべきタイミングで進めていきますが、確かな手応えを感じています。
当社はmiHub®とHands-on MI®を併用していますが、我々のケースでは原材料探索にはHands-on MI®が適していると考えています。 特に、既存原料に限界を感じる、あるいは方向性の決定自体が困難な難易度の高いテーマについては、Hands-on MI®を通じた専門的な提案を受けることで解決を図っています。
開発期間を半減した成果を基盤にmiHub®も導入
Hands-on MI®での成果と、miHub®導入に至った経緯をお聞かせください。
導入初年度のEV用配合開発において、ベテラン技術者による従来手法と、MI活用の比較検証を行いました。プロフェッショナルである担当者が経験を駆使し、約12回の試行錯誤を経て目標に到達したのに対し、MI連携のケースでは、実に半分となる約6回で同等のレベルに達しました。「これは早い」と、その圧倒的なスピード感に衝撃を受けました。
ただ、解析を外部に依頼する形式では、データのやり取りやフィードバックにどうしてもタイムラグが生じます。「この予測精度とスピード感を社内に取り込み、自分たちで回せるようにしなければならない」と考えるようになりました。
プロジェクトが進むにつれて、「解析を内製化して自分たちで動かすためにmiHub®を使ってみたい」「Hands-on MI®は別の切り口で、原材料探索に活用しよう」といったアイデアが次々と生まれました。まさに走りながら学び、活用範囲を広げていった感覚です。
そこで、データサイエンスの高度な専門知識がなくても扱いやすいmiHub®の導入を決断しました。2年目からは加藤を担当に据え、本格的な運用をスタートさせました。
技術者としてMIという手法をどう感じられましたか?
正直なところ、当初はMIという言葉にあまり馴染みがなく、「データサイエンスのもう少し材料寄りのもの」程度の認識でした。
しかし実際に取り組んでみると、化学構造を数値化して特性と紐づける数学的な視点を取り入れることで、開発スピードを飛躍的に高められると実感しました。私たちはどうしても化学的・物理的な理論の積み上げで考えがちですが、数理モデルからゴールへ向かうアプローチも有効だと気づかされたのです。
一方で、AIが出した結果に対し「なぜそうなるのか」というメカニズムを解明するのは、技術者の役割であり強みです。たとえ目的が達成できなかったとしても、「なぜAIはこの構造を提案したのか」を考察するプロセスそのものが、新たな知見の獲得につながるはずです。
miHub®の導入はスムーズに進んだのでしょうか。苦労や乗り越えるために工夫された点があれば教えてください。
当時は入社直後だったため、MIの知識はもちろんのこと、防振ゴムの専門知識も乏しく、手探りの状態でした。自分には扱いきれないのではないか、と不安になる瞬間もありましたが、MI-6の担当者の方に背中を押していただき、まずはとにかく手を動かすことから始めました。具体的には、miHub®を「Excelのような日常的な業務ツール」として最大限活用することにしたのです。
MIの実践を通じて防振ゴムの専門知識も同時に吸収し、予測と実験を繰り返していくと、「パラメーターをこう動かすには、この材料を操作すればいい」という配合設計の勘所が、データを通じて掴めるようになってきました。できることが増えるにつれてその成果が周囲にも伝播していき、「実はこれほど重要な成果を出せていたのか」と、自身の仕事の影響力に驚くと同時に、それを可能にしたmiHub®の威力を改めて実感しています。
経験豊富な技術者ほど過去の知見から予測が立つ分、どうしても「狭い範囲内での最適化」に留まってしまうリスクがあります。だからこそ、固定観念のないフレッシュな人材に担当させたいと考えていました。また、AIの提案する配合を検証し、特性と紐付けるプロセスは、材料の本質を学ぶ最良の教材にもなります。
ベテランが長年の試行錯誤で培った感覚を、加藤はMIのサイクルを高速で回すことで短期間に習得しました。キャリア20年の私と、入社2年足らずの彼が対等に技術的な議論ができている。この事実こそが、MIの高い教育効果を如実に物語っています。
その教育効果は、他のメンバーにも波及しているのでしょうか。
実際に波及しています。加藤の成功事例を土台に、新たなメンバーが手を挙げてくれました。加藤が先行知見を共有しつつ、互いに分からない部分を補完し合いながら進めることで、切磋琢磨する良い関係が生まれています。
この展開において意識したのは、「自分ごと化」です。 いくらツールが有効でも、本人の意志がなければ定着しません。そのため、意欲あるメンバーに委ねる方針を採りました。こうした実績により、現在は「有効性検証のフェーズ」を脱し、「実務で活用する実戦のステージ」に入っています。この動きを、今後いかに部内外へ広げていくかが次なる課題です。
また、MI導入はデータの捉え方にも変化をもたらしました。従来のような針の穴を通すような一点突破の探索ではなく、MI活用を見据えてデータを俯瞰する習慣がつき始めています。この思考の変化こそが、将来的な開発力の底上げにつながると確信しています。
MIで技術力を磨き上げ、世界一の防振ゴムメーカーを目指す
MI-6のサポート体制について、どのように評価されていますか。
MI-6のデータサイエンティストは、専門的な内容でも私たちがきちんと理解できるように噛み砕いて説明してくださるため、些細な疑問もその場で解消でき、安心して進められています。
実務面でのサポートも手厚く、例えば目的変数の設定に苦戦した際には自分たちでは思いつかない手法をご提案くださいました。また、データの細部確認や提出後のショートミーティングなど、認識の齟齬を防ぐ、きめ細やかな連携のおかげでプロジェクトは非常にスムーズです。
単に解析結果を受け取るだけではなく、私たちの知識レベルも引き上げてくれる、まさに“伴走型の支援”だと感じています。今後は私からも提案できるレベルまで、知見を深めていきたいです。
MI-6は、データの取り扱いにおけるプロフェッショナル集団です。こちらが「概念的にこういうことがしたい」といった抽象的なレベルで相談しても、要件を適切に整理し、データの検証まで含めて提案してくださいます。本来であれば私たちが検討すべき部分まで踏み込んでサポートしてくださる点が、非常に心強いですね。
そうした確かな信頼があるからこそ、「では一旦任せてみよう」と安心してプロジェクトを進められる環境ができています。
最後に、今後の目標や展望を教えてください。
原材料探索における直近の目標は、特定の材料に依存しない代替配合を見出すことです。現状では、どうしても依存度が高い領域があるため、MIを活用してその制約に縛られない新たな配合を実現したいと考えています。
社内でmiHub®を活用する仲間を一人でも多く増やしたいと思っています。個人の開発では視点が固定されがちですが、他のメンバーとの議論を通じて視野が大きく広がることを体感したからです。
正解が未知の領域であっても、データを共通言語に「自分はこう考える」と意見をぶつけ合い、建設的な議論ができます。そのプロセスは非常にクリエイティブで楽しいものなので、こうした“データに基づいた対話を楽しむ文化”を醸成していきたいです。
さらに、運用の高度化も構想しています。現在は探索(Hands-on MI®)と最適化(miHub®)を独立させていますが、今後はこれらをシームレスに連携させたいと考えています。双方の解析結果をフィードバックし合うサイクルを回すことで、研究開発をさらに加速できるはずです。
私は、MIを開発現場におけるツールとして定着させたいと考えています。壮大な研究テーマだけでなく、短納期の緊急対応といった課題解決にもMIは有効です。既存データから即座にモデルを構築し、解決のヒントを得るような機動的な活用こそ、顧客対応力の向上に直結します。
理想とするのはトップダウンで指示をするのではなく、「困ったときには、まずMI」とメンバーが自ら活用する自律的な風土です。正直なところ、ツールの細かな操作については、私よりも担当者の方が深く理解しています。しかし、彼らが蓄積した知見こそが会社の財産になりますから、私が全てを把握する必要はありません。MI-6と現場の担当者を信頼して、今後もプロジェクトを任せていきたいと考えています。
将来的な展望として、我々が取り組む防振ゴム開発の領域で世界一を目指したいという強い想いがあります。具体的には、ポリマーの構造から物性を予測する精度を極限まで高め、技術的なトップランナーになることです。この技術を確立し当社のゴム開発に実装できれば、名実ともに世界一の防振ゴムメーカーになれるのではないかと考えています。中長期的な技術競争力の確立においてMIの活用は非常に重要な位置付けであり、共に推進していくパートナーとしてMI-6に今後も大きな期待を寄せています。
製品の構造や形状は模倣できても、材料としてのゴムそのものは真似できません。ゴムはあくまで「黒い塊」であり、外見からは中身が見えないブラックボックスだからです。だからこそ、中身の技術力を磨き上げ、他社より一歩でも二歩でも先へと進んでいきたいと考えています。
大迫様、永田様、和田様、加藤様ありがとうございました!
※掲載内容は取材当時(2025/11/18)のものです。
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MI-6株式会社 事業開発部 bd@mi-6.co.jp
