松本 健Ken Matsumoto
  • 株式会社ADEKA
  • 研究技術企画部 研究技術企画室 室長

研究技術企画部は、ADEKA社内の四事業部の保有する技術を統括する本部に属し、研究技術企画室の室長として社内でのMI推進体制を構築・強化。MI分野の推進リーダーとしてmiHub®︎導入・活用を主導している。

宇野 翔太Shota Uno
  • 株式会社ADEKA
  • 研究技術企画部 研究技術企画室

入社当初は研究所に所属しており、研究者としてMI-6とプロジェクトに取り組む経験を有する。現在はMI推進業務を担当しており、実践研修やセミナー等の企画を通して研究所へのMIの浸透に尽力している。

横田 謙介Kensuke Yokota
  • 株式会社ADEKA
  • 研究技術企画部 研究技術企画室

研究所全体へのDX推進を主業務とし 、その一環としてmiHub®︎の推進を担当。将来的には、さらなるデータ駆動型の研究開発へ移行させることを目指し社内でのMI推進・定着に取り組んでいる。

化学品、食品、ライフサイエンスの3分野をコアビジネスとしてグローバルに展開する、株式会社ADEKA。独自の技術力で競争力のある高機能な製品を供給し、世界の人々の豊かな暮らしと持続可能な社会の発展に貢献されています。

同社では、MI-6のハンズオンプロジェクトの実施を皮切りにマテリアルズ・インフォマティクス(以下、MI)導入の検討を開始し、2024年にmiHub®を導入していただきました。その背景と展望について、研究技術企画部 研究技術企画室 室長 松本 健様、そしてMI推進者である横田 謙介様、宇野 翔太様にお話を伺いました。

属人化した質がネックとなりデータ管理の課題に直面

まずは、貴社の事業概要や事業部のご紹介からお願いいたします。

松本

株式会社ADEKAは、100年以上前に苛性ソーダの国産化からスタートし、副生する水素や塩素を活用して事業の多角化を推進してきました。現在は化学品、食品、ライフサイエンスの三本柱で事業を展開しています。

当社の強みは、経営理念に記載のある「新しい潮流の変化に鋭敏であり続ける」という点にあります。こういった変化に対して、私たちは、「Add Goodness」というコーポレートスローガンの基、「少量添加でより良いものを高機能化する素財」をいち早くお届けするため、マーケットインを主体とし、お客様との密なコミュニケーションを通じて研究開発に取り組んでいます。

私たちが所属する研究技術企画部は技術を統括する本部の企画部門です。全事業部の技術・方向性を横断的に連携させ、コラボレーションや新しいテーマ創出を通じて、より価値の高いものを提供することが私たちの役割です。

MIの導入を検討したきっかけと、当時の課題認識についてお聞かせください。

松本

研究開発のスピードを高める手法として、前任者がデータを活用した技術開発の調査を進め、MI-6のHands-on MI®プロジェクトをトライアルしたのが最初のきっかけです。ただ、当時はMIには豊富なデータが必要だというイメージが強く、担当外の私は、「当社にはあまり合わないのではないか」と、遠巻きに見ていたのが本音です。

宇野

私は当時、研究所の立場でHands-on MI®プロジェクトに携わっていました。“データ自体”は部署内に豊富にあり、それを利活用できることにメリットを感じたため、MI活用に向けてデータを整備し始めたのが経緯です。ただ、“MIとは何か”を全く理解しないまま進めていました。

当初は「データを大量にインプットすれば、良い提案が得られる」という理想像を描いていました。しかし、実際に取り組んでみると、得られた結果は期待したものとは異なっていました。原因は、“データそのものは存在していても、担当者ごとに異なる基準で入力されていたため、形式や粒度がバラバラになり、属人化してしまっていた” という、いわゆる「データの質」にありました。どれだけ豊富なデータがあっても、それを活用可能な状態で蓄積していかなければ結果に繋がらないのだと痛感しました。

横田

データセットの準備は非常に困難でした。そこで私たちは、まず樹脂添加剤という一部のテーマでHands-on MI®を導入し、MI に求められるデータ要件を具体的に把握することにしました。この取り組みを通じて必要なポイントを押さえ、今後の取り組みを進めやすくする狙いがありました。

松本

データを解析できる状態に整備するまでに、非常に時間がかかることを体感しました。本来は3ヶ月程度のプロジェクトでしたが、解析をスタートできる状態にするまでに多大な時間を費やした結果、期間を延長していただくことになりました。正直なところ、期待していた成果は、その時点では得られていなかったのが実情です。

社内表彰を受賞した、“開発期間の劇的短縮”という成果

miHub®導入の決め手を教えてください。

松本

この初期の取り組みでは期待した成果が得られなかった一方で、これまで蓄積してきたデータをより活用していく研究開発の新しい在り方については、MI-6から多くのサポートを受け、解析データ作成のノウハウや、「こういう視点で解析を進めていくと、こういう提案が得られる」といった知見は蓄積されました。また、グラフは三次元までが精一杯とよく言われるように、多次元解析は人の頭では到底不可能だと認識していたため、この領域には一度はMIを活用して本格的に挑戦すべきだと強く感じていました。

その後、次の一手を考えていたときに、当時の営業担当の方が非常に親身に相談に乗ってくれました。私はそれまで「MIは十分なデータ量がなければ活用できない」と思い込んでいましたが、MI-6から“少ないデータからでも取り組めるツールがある”という提案をいただき、視野が大きく広がりました。

私たちの導入要件は、①初心者でも使いやすいこと、②導入しやすいコスト感であること、③推進を手厚くサポートしてくれる体制があること、の3点でした。 MI-6は、単なるツール紹介に留まらず、社内でMIをどう推進していけばよいかという手法の部分まで深く相談に乗ってくれました。この手厚いサポートと、先述の「少ないデータからでも活用できる」という提案が導入の大きな決め手となり、私自身がmiHub®の導入を決定しました。

miHub®導入における苦労や乗り越えるために工夫されたことはありますか。

松本

miHub®導入当時、成果に期待する声は、それほど多くはなかったのが、正直なところです。しかしmiHub®を導入した当時はちょうどコロナ禍で、出社できない時間が生じていたタイミングでしたので、その時間を有効活用し、個人ベースで学び始めている研究員が何名かいました。そして、彼らを含め複数名の研究員にMIの取り組みを始めると紹介した所、挑戦してみたいと、何名もの研究員が手を挙げてくれました。

miHub®を用いてMI推進の取り組みを開始するにあたり、私は「まず3テーマ手が挙がったら、経営層を説得しよう」という戦略を描いていました。幸いにも、元々意欲が高かったメンバーをはじめ、以前のHands-on MI®プロジェクトからの継続メンバーなどから手が挙がったため、まずは少人数からの活用を開始しました。

宇野

そのような状況下で、私は推進役として、担当者一人ひとりの課題やMIへの期待感、さらには上司や部署全体がMIをどう捉えているかといった、その背景まで深くヒアリングすることに努めました。MIを単に使ってもらうのではなく、より良いMIの活用方法を共に考えていくためです。

しかし、導入初期はMIの有効性への理解がまだ十分ではなく、担当者の意欲があっても、緊急度の高い業務が優先されてMI活用が後回しになる状況が散見されました。そのため私たちは、活用方法やデータの見方を積極的に提示し、miHub®を活かした検討プロセスへ移行しやすい体制づくりを支援しました。

松本

そうしたサポートや本人の努力の結果、メンバーのうちの一人が、早速目に見える成果を出してくれたのです。

横田

そのインパクトは非常に大きく、MI活用で開発期間が劇的に短縮され、驚くほどの短納期で開発が完了した、という成果でした。

松本

もちろんMIを使いこなした本人の力量が第一です。その上で、成功の背景には2つの重要な要因があったと考えています。 一つは「MI活用に即した考え方への転換」、もう一つは「目的変数をいかに減らすかなど課題に沿った解析アプローチ工夫」です。こうした取り組みが実り、社内で社長賞の次点にあたる「特別賞」を受賞するに至りました。

想定外の副次的効果は、実践研修が生んだ研究員の“自主性”

どのようにMIを社内へ浸透させていったのでしょうか。

松本

「興味を持ってもらう人を増やす作戦」です。まず、私たち推進部門としては、先の成功事例をいかに早く研究員に浸透させるかに注力しました。もともとMIに興味がある若手を集めて有志の会を始めていたので、まずはその会で取り組みを共有すると同時に、上層部にもアピールしたのです。

しかし、有志の会ではどうしても時間が制約されてしまい、十分な活動を行うことができませんでした。私はこの時、関心が高まったからこそ、ボトムアップの活動に留めず、上司の承認を得た公式な業務として推進する方が、より効果的だと判断しました。

そこで次のステップとして、教育に本格的に取り組む方針を固めました。講演会や実践研修はMIに触れるメンバーを増やすこと、miHub®のパワーユーザーを育成すること、そしてデータ活用の意識醸成をすることを狙いとしました。この方針で上層部から企画内容の承認を得たタイミングで、MI-6から「実践的な研修」のご提案をいただき、その実施を決定しました。

宇野

これよりも以前に社内でeラーニングなどを通して、座学に取り組んだ経験がありました。ただ、MIの概要は掴めても全体像を学んだだけでは、実務においてmiHub®をどう活用すべきかといった実践的な知見までは得られなかったのです。だからこそ、実践が不可欠だと痛感しました。

横田

座学だけでは、研究員にとって最も重要な“MIを実際の研究開発で活用するレベル”には到達できません。一方で、 miHub®を活用して成果が出た経験から、私たちは「実際にツールに触れることで得られる学びや情報が非常に多い」ことも理解していました。これらの理由から、社内では実際にmiHub®を研究員に体験してもらうほうがよいという結論に至りました。

松本

実践研修は私たちの想定を上回る反響があり、契約上の30名の枠に対し、60名近くもの希望者が集まりました。

この背景には、研修メンバーを募る前に実施した講演が大きく影響しています。まず経営層を含む上層部にMIの重要性についてご理解いただくための講演を実施し、その後、若手メンバーの上司にあたる管理職層に向けた講演をMI-6に実施いただきました。まず上層部とMI活用の共通認識を持ち、並行して実践研修を進めようという戦略でした。

実践研修を終えた参加者の変化はありましたか。

横田

まず、研修の直接的な成果として、座学での理論(MIの基本概念や考え方)と、miHub®を使った実践(実データでの予測・解析・解釈)を組み合わせることで、研究者がMIを体系的に理解し、実務に活かせるスキルや姿勢を確実に身につけられたと実感しています。

宇野

スキル面も重要ですが、私が感じた大きな変化は研究員の「意識」です。miHub®は誰でも直感的な操作性を実感できるツールで、MIを活用するハードルは大きく下がりました。しかし、MIに使うためのデータの収集や蓄積の方法は依然として課題があると考え、初めからMIを含め、データの活用を見据えた状態でデータを蓄積するという提案を進めようとしていました。

ところが、課題として提起する前に、研修に参加したメンバーがデータをどう蓄積すべきかを自ら考え始めてくれていたのです。研修後のヒアリングでも、私たちが提案するまでもなく研究員が自主的に、MI活用にあたり適切にデータを取り扱う重要性を認識し、研究室ごとに最適な蓄積方法を検討している部署が複数見られました。これが、私たちが想定していなかった、非常に大きな副次的効果でした。

松本

今回の研修で、活用や蓄積など様々な観点からデータの重要性を理解し、彼らが自らデータセットを作り始めたのは、非常に嬉しい変化でした。

さらに、研修の最終段階として参加者に、今後miHub®を活用するかをヒアリングした結果、「使いたい」という意見と「すぐではないが、他のテーマには使うかもしれない」という意見が、それぞれ12件ずつ特定されました。これだけのテーマが創出されたことを受け、ライセンス数を増やす必要があると判断し、この10月よりライセンス数を大幅に増やし、各研究所で研修から生まれたテーマの取り組みを開始しています。

進化するMI技術の継続的習得で、新製品開発の実現を目指す

MI-6が行う講演・研修などの取り組みやご支援について、率直なご意見をお願いします。

松本

これから社内でMI推進体制を構築していくにあたり、MI-6が実施する講演や研修などの取り組みは、人財育成の面でとても強力であると考えています。さらに、先にお話ししたように研究員のデータに対する意識を高めていただいた実例もありますので、組織風土の醸成の面でも非常に有効だと感じています。

横田

直近では、研究開発DXをテーマにした講演を開催していただき、会場は満席を超える盛況となりました。この取り組みにより研究員のMI活用への意識が確実に向上したと考えています。

また、研修やサポート面では、MI-6のデータサイエンティストの多くが化学メーカー出身で研究開発のバックグラウンドを持ち合わせているということもあり、こちらの意図や課題を深く理解した上で分かりやすく説明してくれたことが、研究員にとって非常に実のある研修になったと実感しています。

宇野

一般的にデータサイエンスと聞くと、専門用語が多く研究員は難解なイメージを抱きがちです。しかし、今回の実践研修は初心者向けということで、専門性が高い部分も、MI-6のデータサイエンティストの皆さんが平易な言葉で分かりやすく丁寧に説明していただき、非常に助かりました。

松本

MI-6にはこれまで継続的に支援いただき、前任のご担当者から現在のご担当者まで、一貫して非常に親身に相談に乗っていただいています。様々な相談に柔軟に対応してくださる点も、私たちにとって本当にありがたいパートナーだと感じており、今後も引き続きご協力いただきたいです。

今後の展望をお聞かせください。

松本

私たちが目指す最終的な姿は、miHub®の活用から新製品開発に繋げることです。

横田

これを実現するためにも、研究開発のスタイルを変えていく必要があります。化学メーカー各社が研究員の確保も難しくなる中、より少ない人員でこれまで以上の成果を出すことが求められています。miHub®のみならずMIをより当たり前のように活用し、データ駆動型の研究活動を推進しなくてはなりません。

具体的には、経験や勘に頼るのではなく、データに基づいた仮説構築・検証が自然に行われる「データ駆動型研究開発」を定着させたいです。そして、従来の知見では到達できなかった材料設計やプロセス条件の発見を目指すMIを活用した探索領域の拡大も進めていきます。更に、過去の実験データや知見を構造化し、再利用可能な形で蓄積することで、組織全体の知的資産として高めていくことも目標として掲げ、今後は、MIを単なるツールとしてではなく、研究開発の思考法として浸透させていくことを重視したいと考えています。

松本

成果が出てくればMIに興味を持つ研究員がさらに増えると期待しており、今回の実践研修のような公式な育成の場は今後も必要になるでしょう。まずは、今回の実践研修に参加してくれたメンバーを主体としたMI推進体制の構築を進めていきたいと思います。

横田

今後は、実務の中でMIを活用し、周囲のメンバーを支援できる人材を育成することも重要だと考えています。実践テーマを通じて、モデル構築から評価・改善まで一連のプロセスを経験できる機会を提供するとともに、社内ポータルにMIの活用事例やマニュアルを集約したり、eラーニングを導入するなど、時間や場所にとらわれず学べる環境づくりも構想しています。

また、MI活用者同士の情報交換会や勉強会を定期開催するなどコミュニティ活用も進め、知見を共有しながら互いの挑戦意欲を高め合える環境づくりを進めていきたいと考えています。

宇野

今後MIを浸透・定着していくにあたり、社内・社外の情報交換の場を定期的に設けることも重要だと考えていますし、将来的には「研究開発DX推進の部署化」も目標として掲げています。

横田

最終的には、MIを研究開発で当たり前に活用していくためのベースとなる知識や考え方を当社の研究員全員が持つ状態を目指しています。そのために、今後もMI-6の研修やセミナーは積極的に活用したいと考えています。

第一に、MI技術は進化が早く、継続的なスキルアップが不可欠であること。第二に、MI-6のセミナーなどは他社事例を知る貴重な機会であり、社外との接点としても非常に有効であること。こうした理由から、MI-6には引き続き私たちの“相談役”としての窓口になっていただくことを期待しています。

宇野

miHub®はMI初心者にとって、「使いやすさ」が徹底されている点で、“MI活用の第一歩”として非常に有効だと感じています。今後も、他社事例や、技術的観点からの更なる活用法の提案、教育といったあらゆる面で、MI-6に継続してサポートしていただくことを期待しています。将来的には「MI×差別化要素」といった、当社独自の強みに繋げていく考えです。

松本

MI-6には日ごろから当社のMI推進に向けた提案や相談に応じていただき感謝しています。

そういった社内外の体制やサポートを整えつつ、今後はmiHub®では実現できない領域にも挑戦していきます。その先のロボティクス活用も視野に入れています。

早期の実現が難しい課題もありますが、今後もMI-6と定期的に議論を重ねながら、研究開発をより良い形へと進化させていけるよう、共に取り組んでいければと考えています。


松本様、宇野様、横田様ありがとうございました!

※掲載内容は取材当時(2025/10/30)のものです。

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