ウオッチをはじめとした多様な事業を展開するセイコーグループにおいて、研究開発・生産技術を担うセイコーフューチャークリエーション株式会社。グループにおける技術や新事業の開発を支えるのはもちろん、長年にわたり培ってきた信頼性と技術力を活かし、受託分析やファクトリーオートメーションを通じて顧客の課題解決にも貢献されています。
同社 先行開発部 材料化学グループでは2022年よりマテリアルズ・インフォマティクス(以下MI)導入の検討を開始し、同年11月にHands-on MI®を導入されました。その背景と今後の展望について、先行開発部 材料化学グループの天野 猶貴様、吉川 一真様、木村 長幸様にお話を伺いました。
付加価値創造や課題解決を目指し、5年先を見据えた材料開発を手がける
まずは、先行開発部 材料化学グループのご紹介からお願いいたします。
先行開発部 材料化学グループは、セイコーグループ内における材料開発を通じた付加価値創造や課題解決を担う組織です。
これまで、時計や、メタルダイヤフラムやバルブをはじめとした金属製品、人工股関節用ステムなどに用いる金属材料の開発等を担当してきており、製品開発に先行して “5年後に求められる機能・製品” を見据えた開発を行っています。
基礎研究に近いテーマも取り扱うことができるという点で、事業会社の中でもMI活用に取り組みやすい立場にある組織だと言えるかと思います。
材料化学グループにおける、現在のMI活用の推進体制について教えてください。
私が材料化学グループ 課長としてMI活用の責任者を務め、テーマリーダーの吉川を中心に活用に取り組んでいます。
解析と実験のいずれかが先行しないよう常に両輪で進めることを重視し、シミュレーションや機械学習モデルの構築など計算関連の領域を担う木村と、実験とその結果の評価を担う吉川をはじめとしたメンバーとで密に連携・議論できる体制や環境をつくっています。

プログラミング経験が豊富ではない私には「どのような解析を行っているか」を知識として理解することはできても、それを実際に自分のパソコン上で実行することは難易度が高いと感じています。そこで、計算周りの高いスキルを持ち、もともと別の事業部でもMI活用に携わっていた木村に解析を任せ、私は得意とする実験系全般を担う形での役割分担として活動を進めていきました。
木村:役割は棲み分けながらも、解析者として可能な限り実験の現場を見たり、実験者と対話をしたりして様子を把握し、反対に実験者も実際に解析を行ってみるなど、これまで連携を意識して解析と実験のサイクルを回してきました。
技術の進化を背景とする“危機感”から、積年の課題である開発期間短縮・コスト削減に着手
MIの導入背景と当時の状況をお聞かせください。
私たちが手がける金属材料の開発においては、特性の評価を、新たな材料を試作した時点ではなく製品として加工した時点で行うことが求められます。こうしたプロセスの性質上「製品化してみたら求める特性が出なかったのでもう一度材料を変えてみよう」といった手戻りが発生しやすく、開発に多くの時間とコストがかかってしまうことが課題となっていました。

短くて5年、長ければ10年以上に及ぶ開発期間を当初は仕方のないものと捉えていましたが、世の中ではAIの技術が発達し、すでにMIを活用した開発期間短縮の事例も見られます。「このままでは競争力で差をつけられ、取り残されてしまうのではないか」という不安や危機感を発端として、全社的なDX推進の流れの中でMI活用に着手することを決めました。
吉川をはじめ同様の危機感を抱くメンバーをアサインし、まずは材料化学グループ内での取り組みとしてスモールスタートを切りました。
どのような経緯やきっかけからHands-on MI®を導入いただいたのでしょうか。
当時MI活用の先行事例は化学や製薬の分野に多く、金属材料の分野ではなかなか導入が進んでいない印象がありました。これは、MIをうまく活用できれば競合他社との差異化を図れるという期待に繋がる一方、「金属材料の開発においてはMIの活用が難しい」ことを意味するとも考えられます。
これまでの実験経験に照らして考えても、加工条件も含め考慮すべき条件が多岐にわたるため、AIで単純に予測を導くのは難しいのではないかと直感的に思えました。
そうした懸念をふまえ、MI活用の取り組みを進めて迅速に効果検証を行うには、MIを専門とするプロフェッショナルの力が必要と考えたことがHands-on MI®導入のきっかけです。チーム内に全く知見がない中で専門家の方に伴走いただける心強さがあり、また私たちが保有するデータを実際に用いて目的に応じた解析が行えることに魅力を感じました。
専門家によるレビューやディスカッションを通じて、メンバーの知識やスキルが大幅に向上
Hands-on MI®導入後、どのように取り組みを進められたのでしょうか。
MIを活用するために何が必要か、使うと何が得られるのかも分からない状況でしたから、初めは何をすべきかMI-6担当者の方にご相談するところからスタートしました。
最初に着手したのは、効果検証です。私たちが持つデータと求める予測について共有し、実際にMI-6の担当者さんに解析を行っていただくと、これまでの経験に近い予測が導かれたことがわかりました。
ここで「MIは金属材料でも使える」「これを使っていろいろなことができそうだ」という確かな感触が得られたのを機に、事業部でMI活用に携わっていた木村をチームに招いて体制を整え、本格的にMIの社内導入を進めていくことを決めました。
木村:当時は事業部でMIを活用した性能改善に携わっていましたが、さまざまな計算や分析を行っても製品化になかなか繋げられない環境にもどかしさを感じていたのです。事業部で扱っていたテーマよりは基礎研究に近い内容になりますが、それでもやりたいことができるのではないかと期待を感じて、材料化学グループのチームに合流しました。
本格的なMI活用の推進へ舵を切り、現在はどのような取り組みを行われていますか?
現在は、冒頭お伝えした役割分担のもと、機械学習をはじめさまざまな手法を用いた解析とその結果をもとにした実験・評価を主に進めています。
木村がテーマに合う手法の選択からその実施までを手がけ、解析内容を説明してくれるのですが、各手法についての専門知識が十分でない社内のメンバーには「用いる手法は合っているのか」「結果は妥当なものか」を批判的に確認することができません。
そこで、こうしたMI活用を進める中で必要となるレビューや技術的なディスカッションの部分で、専門家であるMI-6担当者の方にお力添えをいただいてきました。
まずは解析の過程をすべて自分でやってみた上で「この手法を使って解析したのですが、どうですか?」「選んだ手法はテーマに合うものでしょうか」と考えを伺うほか、解析における行列の計算内容などより具体的な内容に踏み込んだ議論をさせていただくこともあります。

解析の内容までしっかりと理解されることでテーマに合う手法を効率よく選定でき、その分考察に時間をかけられるために、よりクオリティの高いアウトプットを出すことにも繋がり得ます。まずは迷いなく手を動かし、ディスカッションを通じて理解を深めるという過程が素晴らしいなと感じながら伴走させていただいています。
取り組みを通じて得られた成果についてお聞かせください。また取り組みを進める中でのMI-6の支援を、どのようにご評価いただいていますか。
MI-6担当者の方には得られた結果についての判断を適宜頂戴でき、また進める中で疑問が生じた際にも専門知識をもとに回答やアドバイスをいただけて、大変助けられています。
特に、一般的な書籍や文献では分かりづらい「どのような手法を適用すべきか」という判断基準を示していただけることは重要な点です。おかげで「何をやっているのか」「やっていることは本当に正しいのか」が分からないまま手を動かしていたところから、根拠を持ってMIの技術を使えるようになり、その内容や精度にも自信が持てるようになってきました。
また木村の技量の成長にも目を見張るものがあります。もともとプログラミングの素養があってチームに合流してくれたとはいえ、MI-6と一緒に取り組んだ短期間で機械学習やMIについての知見が大幅にレベルアップしたことに驚かされました。
私は機械学習などの手法がよりどころとする統計についての知識を豊富に有しているわけではなく、MI活用に必要な知見もすべて独学によるものです。ところどころ感覚で計算を行っていた私に統計的な側面から知識を授けていただくことで、「計算の正確性は担保されているだろうか」という不安を払拭してくださったことに感謝しています。
私が率先して解析を進めるにあたって、批判的な目で私の実施する内容を見てお墨付きを与え、私の言葉に説得力を持たせてくれるという意味で、外部のパートナーさんの支援は非常に重要なものだと感じます。

MI活用のさらなる展開に向け、MI-6による体制強化の後押しに期待
現時点で、今後の課題と捉えていらっしゃることがあれば教えてください。
一つは、データの取り扱いです。現在は実験データや評価データの保存方法が作業者に依存し、整頓されていない状態になっています。最終的には、各プロセスで出てくるデータをすべて取り扱って解析するなどデータ活用を加速させていくためにも、いかに規則に則った命名がなされ検索性が利く状態のデータベースを作るかを考えていかなければなりません。
データ保存の仕方一つで解析のしやすさが変わるため、解析によってできること、新しくできたことを都度共有しながら皆さんの協力的な姿勢を引き出していきたいと考えています。
もう一つの課題は、解析者の採用・育成です。機械学習をはじめとした解析手法を扱えるメンバーを増やし、日常会話の中で「解析したらこんな結果が出てきたから見て」と気軽に対話やディスカッションができる環境を作ることで、取り組みの幅を広げるとともに、木村一人にかかる負荷も軽減していきたいなと。特に今後MI活用を社内で広く展開していくとなると、データサイエンスの素養が社内に広がっていく必要があると感じています。
最後に、今後に向けた展望と、その中でMI-6に期待されることがあればお聞かせください。
まずは発端となった課題である開発期間の短縮・コスト削減について、MI主導による開発を通じて開発期間を現在の半分にまで短縮することを目指したいと思っています。
そして将来的には金属材料のみにとどまらず、他の材料開発や事業部にまでMIの技術や機械学習を広く展開していくことを考えています。
そのためにも私たち材料化学グループでは、他の組織から相談を受けた際に「できますよ」と言える状態にしておかなければなりません。吉川からあったように採用や育成に力を入れ、取り組みを牽引できるだけの組織体制づくりを進めたいところです。
MI-6にお願いしたいことの一つは、人材育成の後押しです。知見を習得するには、外部の講座など一度きりの学習の場に参加するのではなく、やはり自分の持ってきたデータを自分で触り、コードを書いて解析してみることが最も効果的なのではないでしょうか。これまで伴走いただいてきたMI-6とであればそういった取り組みも進めやすいと思うので、ぜひMI活用人材の育成に一緒に取り組んでいただければありがたく思います。
現在MI-6としても、ツールをご活用いただく以外の方法でもお客様のMI活用をサポートしていきたいと検討を進めております。今はまだ人材育成をお手伝いする枠組みはありませんが、これから新たに作ることを視野に、ディスカッションをさせていただければ幸いです。

セイコーグループは、世の中の変化を背景に昨今オープンイノベーションの活用にも意識を向けていますが、根底には「何でも自分たちでやろう」という姿勢があります。特に金属材料の開発はグループの肝となるコア技術の一つでもありますから、必要に応じて外部のプロフェッショナルのお力は借りながらも、やはりしっかりと社内で仕組みや知見、スキルを持つべきだろうと。
そういった意味でも社内で体制を整えることが肝要となりますので、育成はもちろん、人材の採用についても「MIの知見を持ち、かつ製造業に興味がある方とどのように出会うべきか」などをぜひご相談させてください。
率直に申し上げれば、最終的に私たちの実力が高まればコンサルタントをお願いする領域は狭くなっていくのではと思いますが……最新の技術のキャッチアップなど自分たちだけでは難しいところでMI-6のお力をお借りしながら、組織として技術を維持していくことを理想と捉えています。その状態の実現に向けたご指導に、今後も期待しております。
将来的には自走していただくのが理想ですので、ご卒業をゴールとして見据えながら今後も支援させていただければと思います。引き続きよろしくお願いいたします。
天野様、吉川様、木村様ありがとうございました!
※掲載内容は取材当時(2024/12/16)のものです。
MIに関するご相談については、下記アドレスまでお気軽にお申し付けください。
MI-6株式会社 事業開発部 bd@mi-6.co.jp