NAGASEグループにおける化成品製造の中核メーカーとして、2001年に誕生したナガセケムテックス株式会社。「私たちは豊かな未来のために化学する」のスローガンのもと多様な化学製品の開発・製造を手がけ、幅広い産業分野において顧客の発展に貢献されています。
同社の機能化学品事業部 製品開発部で2021年9月よりマテリアルズ・インフォマティクス(以下MI)導入の検討を開始し、2021年11月にHands-on MI®を導入されました。その背景と今後の展望について、当時製品開発部でMI導入を牽引された伏木將人様、櫻井隆裕様にお話を伺いました。
多彩な市場で求められる高機能材料の開発・改良を担う、研究開発組織
まずは、貴社の事業概要と機能化学品事業部 製品開発部のご紹介からお願いいたします。
ナガセケムテックスは、多様な化学製品の開発・製造を手がける化学メーカーです。
コア事業の一つである「機能化学品事業」では、有機合成技術や重合技術、配合技術を基盤として高機能材料の製造や開発を行い、自動車やディスプレイ、衛生用品分野などさまざまな市場に展開しています。
同事業の中でも新製品の開発を担うのが製品開発部です。櫻井と私は主にコーティング剤を扱い、お客様のご要望に合わせた性能・特性のカスタマイズや、ベースとなる技術力を高めるための材料開発などに取り組んできました。
蓄積されたデータとMIの活用によって生まれる新たな発想に期待
MIの導入背景と当時の状況をお聞かせください。
製品開発部で長きにわたり研究開発を行ってきましたが、年々激化する業界での競争の中で、性能に大きな進化をもたらせていないこと、更に過去の開発プロジェクトや実験で蓄積されたデータを十分に活用できていないことに課題を感じていました。
より良い材料の開発を加速させるべく課題の解決策を模索する中で見つけたのが、MI活用という選択肢です。すでに多くの活用事例が生まれていたこともあり、当初から「MIを導入すれば、従来の発想では達成できなかった性能を持つ材料の開発も叶うのでは」と漠然とした期待がありました。
どのような経緯やきっかけからHands-on MI®の導入を検討されたのでしょうか。
かねてからMIに関心を抱いていましたが、なかなか導入に踏み切れずにいました。そうした中検討を進めるきっかけとなったのが、上長の紹介でMI-6やそのサービスを知り、MI-6主催のウェビナー「MIを組織内で90日以内に浸透させる3ステップ」を課内の皆で集まって視聴したことです。技術的な観点ではなく組織におけるMI活用推進にフォーカスした内容で、活用を進めるにあたって躓きやすいポイントに詳しく言及されていたことが印象に残っています。
MI活用の成功事例ばかりを目にする中で生じていた「本当のところはどうなんだろう」「優れた手段であっても、ノウハウもない自分たちが活用を成功させられるのか」という不安を解消してもらえたと感じました。
情報収集の過程で抱いたMIへの期待と「競合メーカーがMIを武器として先んじてしまうのでは」という危機感が、このセミナー受講を経て「MIを導入しなければ」という確信に変わった感覚です。
データサイエンティストが伴走するHands-on MI®を選定された理由を教えてください。
MIに対する知見の浅い当社では、テーマを進めるにあたって専門家の力を有効活用する必要があると当初から考えていました。サポートを受けながら実践形式でMIを活用した製品開発を進め、社内でMIを浸透させるきっかけとなる成功事例を生むとともに、MI活用にまつわる知見を獲得することができればという期待が導入の決め手です。
MI-6は、化学の知見を持つ方も含めフォロー体制が整っている点が魅力だと感じました。またMI推進において、考慮すべきポイントを十分に把握された上で、導入だけでなく活用定着まで見据えたサポートをしていただける、という点でも安心して伴走を任せられる存在でした。
「MIと化学を熟知した専門家の伴走で、最適解に辿り着けた」
Hands-on MI®導入後、どのように取り組みを進められたのでしょうか。
成果があがる確証のない新たな取り組みにも前向きに臨んでくれそうな人材として櫻井をアサインし、彼を中心に取り組みをスタートさせました。
「新たに優れた材料が見つかれば製品の改良に大きく貢献できる」と思われるいくつかの開発テーマについてMI-6担当者の方にご相談し、「どれがMI活用に適しているか」をアドバイスいただきながら一つのテーマを選定しました。
今回取り組んだのはコーティング液に、ある機能を付与する添加剤の探索で、これは過去に多くの実験を行ったものの、まだ良い結果を得られていなかったテーマでした。単にツールを導入しただけでは、この時点で何をすべきか行き詰まってしまったかもしれません。Hands-on MI®ではデータ整理や活用できるデータの見極めを行っていただき、特徴量の設定についても双方で議論しながら進めることができました。
テーマや材料を深く理解する実験技術者とMIの知識を豊富に持つMI-6担当者の方とで議論しながら、これらの整理や設定を進め、得られた結果や推奨点をふまえて実験を行うというサイクルを何度も繰り返していきました。
Hands-on MI®の導入による成果や、社内の変化として実感されるものがあれば教えてください。
これまで最も優れているとされていた添加剤よりも効果の高いものが3種類見つかりました。10年ほどの長期にわたって取り組みながら実を結ばなかったテーマにおいて、たった半年間で3件もの良い結果を得られたことは非常に大きな成果だと捉えています。
現在は、実験結果を新製品に活かせるよう特許取得を進めている段階にあり、将来に向けた大きな一歩になった手応えがあります。
この成果を報告したことが起点となって、社内でオンラインセミナーを実施することにもなりました。メンバーから「MIについて相談させてほしい」「MIってどんな感じですか」などの声もかかるようになり、取り組みの影響が広がりつつあることも感じました。
取り組みを進める中でのMI-6の支援を、どのようにご評価いただいていますか。
MI-6には、データサイエンスだけでなく化学についても深い理解をされた方がたくさんいらっしゃり、大変頼りになると感じました。もともとMIへの興味はありながらも、自社だけで活用に取り組むことへの不安や抵抗を感じていた私にとって、心強いサポートでした。
MIの技術自体はさまざまな事業者が提供していますが、MI-6には、更に「成果をあげるために、開発者がどのようにMIと向き合い、解析者と協力し合えば良いか」というノウハウまで与えていただきましたね。
開発者として私たちが持つ知見を、MI-6と議論を進めながらMIに入れたことが、次々と良い結果に結びついていきました。「MIの技術者だけでも開発者だけでもだめで、お互いの知見を掛け合わせることで上手くいくのだ」と感じました。
役割分担をしながら互いに頻繁に議論を行うことで、最適解に辿り着けた感覚ですね。
これをすべて社内で行おうとすると、習得に非常に多くの時間がかかりますし、MIの面白さや可能性を感じる前に挫折してしまうことにも繋がりかねません。初めてのMI導入に取り組むにあたっては、まずは専門家にサポートいただくことが必要なのではないかと改めて感じます。
また「社内の多くの方にMI活用の成果を知って興味を持ってもらいたい」という思いがあり、MI-6には社内向けのWebセミナーや自社の成果を取り上げた事例紹介なども実施していただきました。社内の啓蒙活動にもご協力いただけたことにとても感謝しています。
材料開発において、MIを“当たり前に取り得る選択肢の一つ”に
最後に、今後に向けた展望とその中でMI-6に期待されることがあればお聞かせください。
社会や技術が目まぐるしく変化する現代において、MIの技術自体もおそらく日々進化していき、いずれ全員がMIやAIを当たり前に使えるような世の中になっていくのではないでしょうか。そういった動きに対応し、化学メーカーとして選ばれ続けることができるように、当社の社員がMIをはじめとした技術を活用できる状態を早期に実現したいと思っています。
材料開発においては、機能性の向上だけでなく、これまで以上に開発サイクルの短縮が求められるようになることは間違いありません。そのことをふまえ、開発を進める上でのアプローチを多く持っておくこと、その中でMIが“当たり前に取り得る選択肢の一つ”となることが大切だと考えています。
今はまだ当社にとってMIは“特別なもの”であるかもしれませんが、これから日常的な業務に身近なツールとして認知されるように準備をしていかなければいけないなと思っています。「MIがどのようなテーマで活用できるのか」を正しく見極めるとともに、今回のような成功例を共有し「こういうときにMIを使ったらどうなるだろう」と一人ひとりの脳裏に浮かぶような状態を作っていくことが、その第一歩になるのかなと考えています。
今回は一つのテーマに半年かけて取り組みましたが、まだまだ多くの開発テーマがありますので、「いかにMIを活用しながらそれらを成功に導いていくか」をしっかりと考えていきたいところです。
その中でMI-6の皆さんには今後も変わらず、単にツールやサービスを提供するのみにとどまらない、コンサルティングや情報提供なども含めた幅広いサポートを期待しています。非常に手厚いサポートを提供していただけますから、MI導入を検討されている方はぜひMI-6に思い切って相談され、アシストを受けながら挑戦してみてはとお伝えしたいですね。
伏木様、櫻井様ありがとうございました!
※掲載内容は取材当時(2024/10/25)のものです。
MIに関するご相談については、下記アドレスまでお気軽にお申し付けください。
MI-6株式会社 事業開発部 bd@mi-6.co.jp