八木 克眞Katsuma Yagi
  • 倉敷紡績株式会社
  • 技術研究所 所長(Hands-on MI®導入時)
萩谷 英一郎Eiichiro Haginoya
  • 倉敷紡績株式会社
  • 技術研究所 基盤技術グループ 主任研究員
南條 祐子Yuko Nanjo
  • 倉敷紡績株式会社
  • 技術研究所 基盤技術グループ 研究員
宮崎 千夏Chinatsu Miyazaki
  • 倉敷紡績株式会社
  • 技術研究所 基盤技術グループ 研究員

1888年に有限責任倉敷紡績所として創立され、以来130余年の歴史を紡ぐ倉敷紡績株式会社。原点となる繊維事業のほか、化成品や環境メカトロニクス、食品・サービスなど幅広い分野に事業を展開し、人々の暮らしと産業を支えています。 

同社の研究開発を担う技術研究所 基盤技術グループでは、2013年頃よりマテリアルズ・インフォマティクス(以下MI)導入の検討を開始。2020年にHands-on MI®を導入いただきました。その背景と今後の展望について、当時技術研究所長として取り組みを牽引された八木克眞様と、基盤技術グループの萩谷英一郎様、南條祐子様、宮崎千夏様にお話を伺いました。 

信頼のおける要素技術の確立を通じて、新規事業開発を支える

まずは技術研究所 基盤技術グループの組織概要からお聞かせください。

八木

技術研究所は、さまざまな調査や探索を通じて新たな技術を見出す“研究”と、新たな商品や素材を生み出す“開発”の二つの役割を担う組織です。少しずつその研究内容や役割を変化させながらも、1960年代頃からクラボウの新規事業の支援や開発に携わり続けてきました。 

2013年に私が所長に着任して以来、クラボウの業容拡大に貢献する「新たな研究所」となることを目指して組織改革を行っており、その一環として立ち上げたのが基盤技術グループです。 

このグループでは、プラスチックや繊維関係の素材開発を担う「物質科学」、数値解析や熱流体シミュレーションなどを手がける「数理科学」、装置設計や動作制御を扱う「物理科学」など全6チームが技術の検証に取り組んでいます。新規事業立ち上げの支えとなる要素技術を確立するとともに、各分野において見出した新たな技術をかけ合わせて差別化を図ることを狙いとしています。

情報科学や計算科学の手法を活かした、“新しい”技術探索に挑戦

どのような背景から、MIの導入を考えられたのでしょうか。

八木

「新たな研究所」への変革というミッションの実現に向け、情報科学や計算科学の手法を活かした技術探索のタスクを興そうと構想していたことが発端です。そのアプローチを検討する中、旧知のビジネスコンサルタントから「面白い会社がある」とご紹介いただいたのがMI-6でした。 

確率論や統計手法の観点を持つMIなら材料開発に役立てられるのではと期待がありましたし、今までにない取り組みにも柔軟に挑戦してくれるだろうと思えるメンバーがいたことも後押しとなり、ぜひ試してみようと考えました。 

今回プロジェクトの中核を任せたのが、物質科学チームで繊維関係の素材開発を担う宮崎、そして数理科学チームで日頃からデータを扱っている南條です。  

宮崎

MIの活用によって開発期間の短縮を実現された事例を学会などで耳にしており、当社でも持っておくべき技術ではないか、他社が導入を進めれば脅威となり得るのではないかとの思いから参画を決めました。

南條

物理学を専攻しデータや計算に親しんできたことを活かし、プログラムの構築やデータの前処理、解析などをサポートできればとプロジェクトに加わりました。物質科学チームでは日々たくさんの実験に取り組んでいるため、そのデータをしっかり活用していきたいという期待がありましたね。

データサイエンティストが伴走するHands-on MI®を選定された理由を教えてください。

八木

技術的なコンサルティングから、データサイエンティストの育成やMI推進マネジメントなどのサポートまで、MIを活用した研究開発を基礎的な部分から後押しいただける点が決め手です。 

テクニカルサポートを活用するだけでなくハンズオンでのサポートをお願いし、密にコミュニケーションをとることが、MIの習得や適切に使いこなすために有効だと考えました。

経験や感覚だけに頼らない、“データで考え、データで語る”実験のあり方へ

Hands-on MI®導入後の、具体的な取り組み内容について教えてください。

宮崎

まずは当時開発していたバイオ・繊維関係のテーマのデータをMI-6担当者の方にお見せし、アドバイスをいただいて「どのようなデータがあればMIが適用できるか」「どのような結果が期待できるか」の解像度を高めながら、実際のテーマへの適用を進めていきました。

導入の過程で苦労されたことはありましたか。

南條

社内には活用できるたくさんのデータがあると信じていましたが、蓋を開けてみれば信頼性が低いデータも多く、また欠損も多く見られる状況でした。そうしたデータをまず整理する過程は、非常に多くの時間を要した部分の一つだったと思います。

八木

MI推進者と実験者、そしてMI-6担当者の方という三者でコミュニケーションをとるにあたり、それぞれの考えを互いにどう伝えるか、“言葉”のハードルが大きかったのではないでしょうか。

宮崎

そうですね。私はMIやデータ解析にまつわる知識が全くないところからのスタートで、「機械学習モデルとは何か」「どのような形でデータを出せばその“モデル”を作っていただけるのか」もわかりませんでした。まずは解析をお願いし、いただいた結果を見ながら「どのようにお伝えすべきだったか」を見極めるなど、手探りで“言葉”のチューニングを行っていった感覚があります。

南條

私が難しさを感じたのは、実験者の方とのコミュニケーションです。実際の実験の様子を見学し、「これは何ですか?」「どうしてこうするのですか?」「どうしてここで止めてしまうのでしょうか」とたくさんの問いを投げかけながら、実験者としての考えや実験結果にばらつきが生じる背景などを理解していきました。

萩谷

導入後少し経ってから、以前所属していたこの技術研究所に戻ってきた私としては、かつて開発に携わっていた頃の感覚とMIの考え方との違いに驚きました。 

試験結果を解釈する際にも、実験者の経験や感覚だけに頼るのではなく「本当にそう言えるのか」とデータに基づいて考えようとすることに、初めはなかなか理解が追いつきませんでした。対話を繰り返して少しずつ理解を深め、多くの時間をかけて私を含む実験者の意識が少しずつ変わっていったのかなと感じます。

どのような思いでその苦労を乗り越えられたのでしょうか。

萩谷

「面白いことやってやろう」というのがクラボウの社風ですから、馴染みのない新しいものにもまずは挑戦してみようという思いがありました。

宮崎

あくまでゴールはMIの導入ではなくより良い開発ができることなので、「MIが私たちの研究開発にフィットするか、役立つか」「自分たちでMIを使いこなせるか」を見極めようという気持ちで臨みました。

南條

社内にあるデータの価値を底上げし、活用できるデータにすることを常々意識しながら取り組んでいました。

MI-6によるハンズオンの支援でメンバーの成長を実感

Hands-on MI®の導入による成果や、社内の変化として実感されるものがあれば教えてください。

南條

実験者の皆さんのデータに対する意識が変わってきました。「データをきちんと取ってきちんと解析する」「経験則や感覚だけではなく、定量的なデータをもとに未来を予測する」など、“データで考え、語る”というあり方が浸透し始めたように感じます。

宮崎

以前と比べて、「グラフをさまざまな観点から見てみる」といった個人の取り組みも増えてきましたよね。

萩谷

その上で南條さんに「こういう数値を出してみたんですけど、ここから何か傾向は読み取れますか?」「こういうふうにデータを取ったら何か出せませんか?」と相談にいくようになっています。まだ自分たちで計算できる状態には至っていませんし、結果として形にならないことももちろんありますが、まず相談してみるというアクションが生まれているのが印象的です。 

実験者としても、事業のさまざまな要望に応えるために実験を短サイクルで回さなければならないという事情はありながらも、次に繋がらない単発の実験を繰り返す状況に「このままでいいのか」と感じていたのかもしれません。

南條

そうした中、MI-6のサポートを受けてデータ活用の可能性を示す事例が作れたことで「こういうデータをこう使えばこういう解析ができる」「クラボウのデータでここまでの解析ができるんだ」という意識が生まれ、一緒にMI活用に取り組んでいくという気運の高まりに繋がったのかなと思います。

プロジェクトを進める中でのMI-6の支援を、どのようにご評価いただいていますか。

宮崎

インフォマティクスの知見が全くなく、自社のデータを使った解析のイメージもつかない状態から、独学でMIを習得しツール導入に取り組むとなると非常に難度が高かったはずです。ゼロからのスタートを切る中で最初にMIの専門家に直接ご相談できたことは、効率よくMIの導入を進める後押しになったと感じます。 

技術的な観点で私たちのレベルに合わせてサポートいただいたのはもちろん、MI推進者と実験者の立ち位置など、導入をうまく進めるための組織づくりについてもアドバイスいただけたことがありがたかったですね。

南條

データの信頼性が低い状態であると分かってから、「実験のあり方やデータの蓄積方法を変えるためにどう働きかけるべきか」についてたくさんのアドバイスをいただきました。またさまざまな前処理の方法やデータの見方も教えてくださり、少ないデータで解析ができるようになったことも感謝しています。

八木

ここまで一人ひとりからお伝えしたようにメンバーの意識とスキルが高まり、チームとしての実力がつくとともに研究の風土も大きく変わりました。それは、単に「MIの方法論を教える」だけでは絶対に実現できないことです。研究所で扱う多様なテーマへのMIの適用についてアドバイスし、研究に活かせることの実証を後押ししてくださったMI-6には、責任者である私としても心から感謝しています。 

もちろん、すべてのテーマが成功に繋がったわけではありませんが、それに挑戦する中で学んだことがたくさんあったはずです。人を育てることがなかなか難しい中で、これだけメンバーが成長したことを考えればHands-on MI®の導入は非常に有効な投資であったと思います。

MIが効果を発揮するテーマを見極め、ツールの一つとして活用する

最後に、今後の展望とその中でMI-6に期待されることがあればお聞かせください。

萩谷

プロジェクトを進める中で、短サイクルの実験ではなく、網羅的にデータを取って傾向やばらつきを把握して実験のサイクルを回す動きが出てくるなど、「意識的にデータをたくさん取る」ことに力を入れる動きが進展しました。今後はさらに一歩進んで「より効率的に実験を行う」ことにフォーカスし、現在南條を中心に取り組んでいる推定モデルの構築などを進めていきたいと思っています。

南條

MI-6との活動を通して、感覚的ではなく定量的な考え方や結果が多くみられるようになったので、この変化にあやかってさらなるデータ駆動型の解析を行っていきたいですね。MI-6担当者の方には、より汎用的なデータの処理の仕方などを今後教わっていければと思います。

宮崎

MIを実際に使う場面は現時点ではあまり多くありませんが、ツールの一つとして必要なときはいつでも使えるような状態にしておきたいと思っています。今回のプロジェクトで「MIが効果を発揮するテーマかどうか」がある程度判断できるようになったため、今後使いどころを逃さないようにしていきたいところです。 

その中で、おそらくMIの技術は今後も発展していくはずですから、クラボウで活かせそうな技術情報があればぜひ継続的にご提供いただければ嬉しく思います。

八木

他にも、世の中における技術としての位置付けや、トレンドの変化、他社の動きなど私たちだけではキャッチできないような情報や考え方をご共有いただければありがたいなと。企業対企業の“対話”ができるようなお付き合いを今後もいただければ幸いです。引き続きよろしくお願いいたします。


八木様、萩谷様、南條様、宮崎様ありがとうございました!
※掲載内容は取材当時(2024/10/28)のものです。

MIに関するご相談については、下記アドレスまでお気軽にお申し付けください。
MI-6株式会社 事業開発部 bd@mi-6.co.jp


本記事の要約と、インタビュー本編でご紹介できなかった皆様のお話について、オウンドメディア『miLab(エムアイラボ)』にてご紹介しています。ぜひご覧ください。

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