藤井 満美子Mamiko Fujii
  • 株式会社MORESCO
  • 研究開発部 研究開発課

ホットメルト型粘着剤の製品開発に従事した後、新規商品開発プロジェクトに携わり、製品からVOC(揮発性有機化合物)や臭気を取除くMORESCO独自の新技術を開発。現在は研究開発部において新規技術の応用展開とR&D部門へのDX推進に従事している。

末吉 祐介Yusuke Sueyoshi
  • 株式会社MORESCO
  • 特殊潤滑油事業部 機能材開発部

入社後水溶性切削油の開発や海外生産立ち上げなどに従事し開発現場を経験、現在は電子実験ノートの普及と管理・ラボオートメーション化による実験の自動化やソフトウェア開発を中心に活動しているR&D部門のDX推進チームと連携しMI推進を牽引している。

小西 晋平Shinpei Konishi
  • 株式会社MORESCO
  • 研究開発部 研究開発課

前職では化学メーカーにて、生産、開発、マーケティング、海外展開の業務に従事。2022年に人工知能科学修士号を取得し、同年、株式会社MORESCOへ転職。2023年よりMORESCOの重点プロジェクトの一つであるDX推進プロジェクトに参画しR&D部門でのMI推進とともに、全社的なDX推進戦略策定に取り組んでいる。

国産特殊潤滑油のパイオニアとして1958年に創業した、株式会社MORESCO。合成潤滑油やホットメルト接着剤をはじめ、独自技術を活かした多様なオンリーワンの製品を生み出し、幅広い産業分野に貢献されています。
同社の研究開発部門において2022年にマテリアルズ・インフォマティクス(以下MI)の検討を開始し、2024年にmiHub®︎を導入しました。その背景と今後の展望について、研究開発部 藤井満美子様と小西晋平様、特殊潤滑油事業部 機能材開発部 末吉祐介様にお話を伺いました。

研究開発DXを通じて、境界領域の化学技術を進化させる

まずは貴社の事業概要からお聞かせください。

末吉

「特殊潤滑油事業」「ホットメルト事業」「エネルギーデバイス材料事業」「合成潤滑油事業」、そして化粧品やシャンプーなどに使われる「素材事業」の5事業を展開しています。滑りやすくする潤滑剤や、その逆の用途となる接着剤といった、物と物の間の境界領域に関する化学技術が当社の強みです。

お客様の生産活動の効率化に貢献し、また激しい市場の変化にも的確に対応できるよう、お客様のマシンの進化に合わせて潤滑剤も進化させる必要があります。そのために日々研究開発を行うとともに、研究開発部門のDXを通じた製品開発スピード・精度の向上にも取り組んでいます。

どのような背景から、研究開発部門のDXに注力されているのでしょうか。

末吉

案件の増加やコロナ渦における在宅勤務の推奨などに起因して、2020年頃より十分な実験数の確保が難しくなり、製品開発の効率化が求められるようになったことが背景にあります。効率化を検討していく段階で浮き彫りになったのが、データ活用にまつわるいくつかの課題です。ひとつは配合検討が属人化し、ベテランの経験やノウハウが蓄積、伝承されていないこと。その他にも、実験データが共有・検索可能な状態に置かれておらず、結果として効率的な配合探索が十分に行えていないことなども挙げられます。

これらの課題をふまえ、データ駆動型のアプローチを取り入れて業務プロセスを革新する「研究開発DX」が開発効率化の重要な手段であると考え、研究開発部門を軸に全社横断的に取り組みを進めています。

研究開発者自身がMI解析を行えるように

MIの導入背景と当時の状況をお聞かせください。

藤井

現状の課題をふまえて末吉が実験データのデジタル管理に着手し、この動きが次第に全社に広まっていく中で、データ分析の専門家として入社した小西の提案でMI活用が始まりました。

当時、具体的にどのような取り組みが行われていたのでしょうか。

小西

まず実施したのが勉強会です。各開発部門からメンバーを募り、徐々に規模を拡大しながら1年にわたって活動を続けましたが、MI活用が進捗するどころか、参加者のMIに対する熱が引いていった感触がありました。

藤井

勉強会ではアルゴリズムなど知らないことを学べる楽しさを感じていたのですが、その知識を自身の実験でどのように活用すべきかがイメージできず、行き詰まりを覚えていました。

小西

開発者にデータサイエンススキルを身に付けてもらおうと専門性の高い内容を教えた結果、MI活用のハードルを上げてしまったようです。

そこで、自分たちでプログラミングや機械学習を学んで仕組みを構築するのではなく、SaaSを活用する方針へと舵を切り、勉強会もアウトプットを意識した内容に変えました。その中で、少数サンプルでも行えるベイズ最適化の勉強会を開催し、ある部署のメンバーから「やってみたい」と挙手してもらえました。

藤井

私が他社のツールを用いて解析と提案配合の作成を担当し、開発者が試作を行うという流れで連携しました。結果として、得られた提案配合において特異的な性能を見出し、ベイズ最適化の優位性を確認することができました。これは、機械学習を研究開発に取り入れていくうえで大きな転換点になりました。

機械学習を開発に取り入れる上で、大きなハードルの一つがこの「提案配合を試作するかどうか」という点です。開発者の興味と好奇心によって、経験に基づいた思い込みを外して実際に試作するというハードルを乗り越えることができたので、特異的な性能を見出すという成果に繋がったと考えています。

小西

解析者と開発者を分けた当時の取り組みでは、データの受け渡しや解析結果の説明など多くのやりとりが発生してしまいました。このままベイズ最適化を日常業務に落とし込んだとしても、本当の意味での効率化は達成できない。また、開発者がモチベーションを維持し主体的に実験を進めていくためにも、やはり本人が解析を行うことが重要だろうと考えました。

MIツールの活用定着に課題を抱えられていた中、miHub®︎導入を決められたきっかけをお聞かせください。

小西

MIツールの比較検討を実施する過程でmiHub®︎のデモンストレーションをお願いし、藤井がこのツールの必要性を強く訴えたことがきっかけでした。私は初見の印象として、現行ツールに追加で導入するイメージが沸きませんでしたが、藤井から「いや、いるから!どう見てもいるでしょう」と言われました。

私はデータサイエンスの専門性を磨く中で開発者側の気持ちから距離ができてしまっていましたが、藤井は「現場の開発者は、ここまでツール側が寄り添ってくれないとみんなが使えない」という感覚を持っていました。

藤井

専門的な知識をシンプルで分かりやすく、使いやすいUIに落とし込んでくれているツールだというのが、miHub®︎の印象です。

小西

「研究開発者自身がMI解析を行えるように」という意図が明確で、開発者に合わせた仕様になっているのだと理解できる点が随所にありましたね。

藤井

そうですね。開発者に寄り添うmiHub®︎のUIなら、示される道筋や実験条件に沿って進めれば、データサイエンスに詳しくなくても使えるはずだと思いました。そのため、MI初学者でも迷わずに活用していけるだろうと感じ、MI活用を広めるためには絶対にmiHub®︎が必要だと声を上げました。多種多様な解析手段が用意されているツールは、一見メリットが多そうに感じられますが、MI初学者は何をどう使えばいいのか迷ってしまいます。miHub®︎はデータ解析のためではなく、機械学習を用いた”実験計画”に特化したSaaSなので、多くの開発者に広がっていくイメージを持てました。

小西

MI推進チームメンバーとして、私のようなデータサイエンスを勉強してきた人間だけではなく、開発者のリアリティある感覚を有する藤井のような人材がいてくれたことは、全開発者へMIを普及させていくうえで非常に重要でした。藤井が開発者との架け橋になってくれなければ、miHub®︎の導入意思決定だけでなく、MIを全社的に広く展開するためのビジョンも想像できなかったと思っています。

強みを活かすため、複数ある解析ツールの棲み分けを整理

現在 miHub®︎をどのように活用されているのでしょうか。運用について教えてください。

小西

弊社ではmiHub®︎導入よりも前に、別の解析ツールを導入していたので、現在は得意領域を鑑みて使い分けています。データサイエンティストは専門的なスキルを活かして他の解析ツールを活用し、開発者は直感的に操作できるmiHub®︎を用いて実験計画を進めています。miHub®︎は開発者にとって使いやすく、データサイエンスの専門知識に依存せず実験計画を効率的に立てられるツールであり、これにより両者がそれぞれの強みを活かしつつ協力して取り組むことが可能な体制を構築しています。

ツール選定後、導入〜運用開始までの過程で苦労されたことはありましたか。

末吉

先に導入していた別の解析ツールと並行してmiHub®︎を採用することに対し、経営層からの承認を得るプロセスに苦慮しました。「機械学習をどのように社内へ浸透させ、業務フローに組み込んでいくか」というビジョンや他の解析ツールとの差異を十分に伝えきれなかったため、初めはmiHub®︎導入への理解が得られずにいたのです。確かに、当時は他社ツールとの棲み分けを明確に考えきれていなかったので、指摘があって当然でした。

導入意義を明らかにする過程においては、MI-6営業担当の方にご尽力いただきました。ディスカッションを重ねる中で、開発者自身で機械学習テーマを推進できることの重要性やmiHub®︎の使いやすさに改めて気付かされました。また、MI-6担当者とのツール棲み分けの議論を通じて、当初のMI活用・浸透のビジョンで「一律にプログラミングなどのデジタル技術の習得やアルゴリズム学習を求める」ステップを踏もうとしていたところから、MIの社内普及に向けたロードマップを再構築することができたと考えます。

小西

予算取得のプロセスにおいてサポートをいただいたことにも、感謝しております。全社予算で研究開発部全体にmiHub®︎を導入したいという思いがありながらも、決裁ハードルを高く感じていました。次善策として考えていた各事業予算での一部導入を進めようとしたところ、営業担当の方が率直に意見を言ってくれたのです。「次善策は容易だが、研究開発部門のハンドリングのもと全社的にMI浸透を目指す上では、研究開発部から手離れしすぎた進め方になってしまうのでは」との言葉に、取り組みの今後や推進役の立場を理解して支えてくださる存在の心強さを感じました。

そうしたMI-6の方々のサポートもあって、全社予算でのmiHub®︎導入の承認を無事に得られました。最終的には、弊社の風土である「挑戦するならやってみろ」という、挑戦を決してNOとは判断されない姿勢で受け入れてもらえました。弊社は研究開発型企業を標榜しており、失敗が否定されることは決してありません。手前味噌ながら、新しいことにチャレンジしやすい会社だと改めて感じました。

開発者の豊富なドメイン知識により、MIは真価を発揮する

miHub®︎を導入して、どのような効果がありましたか?

末吉

Pythonを用いて自身でアウトプットデータを成型するなどの様々な手作業が不要になり、miHub®︎が示す明瞭なプロセスに沿って進むことで、各開発者自身で機械学習に基づいた実験データをしっかりと出せるようになりました。実験や日々の業務がある中でも負担なく使っていけるソフトウェアだと感じます。

藤井

開発者が自ら解析できることで、解析者との連携やコミュニケーションの手間を省くことができます。
また、miHub®︎の導入効果は効率化だけでなく、実験の質の向上でも実感しています。自身の解析を通じて得た配合について、「この材料が効いている」「この物性が効いている」と確認し、次の施策に繋げる流れが生まれました。さらに、miHub®︎活用によって見出せた配合から良い成果が生まれるなど、新たな発見もありました。MIの経験が浅い方や初めて開発に入る方でも、機械学習を実験に活かせる点で、改めてmiHub®︎の強みを感じています。

今後、どのようにmiHub®︎を活用していきたいと考えていますか。

末吉

PCなしでの業務が今では考えられないのと同様に、miHub®︎を用いて新たな実験条件を効率よく取得することを、習慣として根付かせていきたいと考えています。

今後、活用の拡大と定着をさらに進めるにあたって重視したいことは、開発者が新たな材料の探索に尽力する中で、自身のレベルアップを続けることです。機械学習は、利用者がインプットした情報を元にしたアウトプットが提示されます。研究開発者が主体的に実験を進め、その中で機械学習を効果的に活用するという考え方を、全員にとって当たり前にしていきたいと考えています。

小西

その通りで、開発者×MIの掛け算で初めて価値が創造されます。MIは、開発者のドメイン知識が豊富なほど、より強力な成果を生み出します。ここを勘違いして、「MIは実験の正解を教えてくれる魔法の道具であり、開発者が思考しなくても良くなる」と捉えてしまう人が多い印象です。問いの立て方やデータの解釈でドメイン知識を発揮し、仮説検証サイクルで機械学習によって効果的な手助けをしてもらうようなMIの活用をしていきたいですね。

現在、それぞれの開発部から1名ずつmiHub®︎ユーザーを選出してもらい、実験計画プロセスにMIを組み込む活動をしています。これは、開発者が主体的に機械学習を活用する文化を育てる一環でもあります。今後も全社一丸となって、研究開発型企業としてのあるべき姿を追求し続けたいです。

(各事業部からmiHub®︎ユーザーとして選出された皆さま。左から、ホットメルト開発部の橋本雅彦様、機能材開発部の川口真里奈様、デバイス材料開発部の久保尻由貴様、ライフサイエンス開発部の上村聡様)

miHub®の活用を通じて目指す目標があればお聞かせください。

小西

製品開発という仕事をもっと面白いものにしたい、という思いが根底にあります。MIを活用して単に業務を効率化するのではなく、開発者がチャレンジングなテーマに取り組み、自己成長を実現することに繋げていってもらえればと思います。

最後に、今回MIを社内で普及させていくにあたり、MI-6の担当者の方に大変助けられました。機械学習を研究開発に組み込むことの難易度が想像していた以上に高く、全く思い通りにはいかない中で、いただいたサポートに感謝しています。

藤井様、末吉様、小西様ありがとうございました!

※掲載内容は取材当時(2024/9/3)のものです。

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