MI-6株式会社では、マテリアルズ・インフォマティクスに特化したカンファレンス「MI Conf 2024 - Materials Informatics Conference -」(以下、MI conf 2024)を2024年9月30日に開催いたしました。
本記事では、MI conf 2024より、名古屋大学大学院工学研究科 教授 兼 理化学研究所革新知能統合研究センター チームリーダー 竹内氏の講演内容の一部を抜粋してご紹介いたします。
アーカイブ動画もご視聴いただけますので、ぜひご覧ください。
竹内 一郎
Ichiro Takeuchi
名古屋大学大学院工学研究科 教授理化学研究所革新知能統合研究センター チームリーダー
2000年名古屋大学にて博士(工学)を取得。三重大学助教、名古屋工業大学准教授、教授等を経て、2022年4月より現職、データ駆動型人工知能の基盤となる機械学習の研究と実践に従事。
機械学習の理論・アルゴリズム研究の成果は難関国際会議に数多く採択され、国内外から注目を集めている。また、実践研究として、工学分野、生命分野、材料分野の研究開発にAI・機械学習を活用するプロジェクト研究を数多く進めている。
2024年より、科学技術振興機構(JST)のさきがけプロジェクト「AI・ロボットによる研究開発プロセス革新のための基盤構築と実践活用(研究開発プロセス革新)」の研究総括を務めている。
はじめに
竹内氏は、機械学習・データサイエンス・統計科学がご専門であり、材料科学分野でも共同研究を通じてデータ駆動型のアプローチに取り組んでいます。本講演では、AIが材料設計や科学技術全般にどのように活用されているか、そしてその可能性と課題について、初心者にも分かりやすく解説していただきました。
科学技術のためのAI(AI for Sci. & Tec.)
科学研究におけるAIの活用は、仮説の生成、性能の予測、実験による検証、知識の発見など、研究プロセスのあらゆる場面で有用です。例えば、生成AIは新しい仮説を生み出し、予測AIはその仮説の妥当性を評価します。そして、対話AIを用いてロボットやシミュレーションを通じた実験計画に進んだ後、説明AIが膨大なデータを知識としてまとめ、この知見を新たな仮説の生成に活用する。このように、AIは研究の各プロセスを支援することができます。
AI・データ駆動設計の基礎
機械・車両・回路・ソフトウェアなど、様々なモノづくりで鍵となる「設計」は、大きく分けて、「1.設計空間の同定」と「2.設計空間の探索」という2つのステップで構成されます。設計空間とは、例えば車両の場合、エンジンのタイプ・大きさ・形状・色・重量など、空間上の1点が特定の車両に対応しているような設計パラメータの空間を意味します。
設計問題を考える時には、まず「ステップ1:設計空間の同定」において、設計空間を定義します。その後、「ステップ2:設計空間の探索」において、設計空間上のどの部分が良くて、どの部分が悪いのか、探索することになります。
分子設計の場合も、同様の枠組みが使用されます。例えば、SMILESと呼ばれる分子情報を用いて、ニューラルネットワークにより圧縮した後、ベイズ最適化により探索する取り組みが効果的であることが報告されています。
生成AIと予測AIの統合・ベイズ最適化に関する研究動向
多くのAIによるモノづくりでは、生成AIで設計空間を同定し、その設計空間の中で予測AIを活用して良いものを探索する取り組みが行われています。このときの設計空間は「潜在空間」と称されており、不確実性を考慮できるベイズ最適化が頻繁に活用されています。
これに関連して、近年の研究動向の一部として、下記手法の概要が紹介されました。
- Predictor VAE
- Weighted Retraining
- 有望領域の潜在空間データオーグメンテーション
まとめ
AIの材料設計への適用は、設計空間の同定と探索という枠組みを中心に進化を続けています。設計空間の同定では、構造データの表現やエンコーダ/デコーダの選択が課題であり、設計空間の探索では、高次元空間の効率的探索や専門知識の導入が鍵になると竹内氏は語っています。
miLab編集部からのメッセージ
本記事で取り上げた竹内教授の講演は、材料設計におけるAI活用の現在地と未来像を描き出した、示唆に富むものでした。分子のデータ駆動型設計の概観から最先端の研究動向に至るまで、深い洞察とともに解説していただき、講演を通じて多くの参加者が新たな視点と意欲を得たことと思います。
竹内先生のご講演からは、AI技術を単なるツールとしてではなく、材料設計という創造的なプロセスを支える「共創のパートナー」として位置づける熱い思いが伝わってきました。設計空間の同定と探索という普遍的な枠組みをベースに、生成AIと予測AIの融合、潜在空間の効果的な設計・活用といった具体的な取り組みは、多くの研究者の創造力を高めるものではないでしょうか。
竹内先生の、AI技術と人間の創造性が交わる地点をさらに深化させようとする姿勢には、私たちも深く感銘を受けました。材料科学というフィールドで、データサイエンスと研究者の直感が共鳴し合う未来を共に実現するべく、miLabがその実現の一助になるよう精進してまいります。
竹内先生の機械学習分野における研究が、材料科学分野の幅広い研究者や技術者の心に響き、新たな挑戦を生み出す原動力となることを願っています。