この数年間で、ものづくり産業の研究開発においてMIの導入・推進が急速に拡大しています。一部の研究チームにおける試験導入だけではなく、MIの全社展開に着手する企業も目立つようになりました。

今年で第2回目となる、マテリアルズ・インフォマティクスに特化した最大の祭典「MI Conf 2024」が、9月末オンラインにて開催いたしました。「MI推進の先駆者が語る、成果が出るまでの舞台裏」にフォーカスを当て、まさにMI実装に取り組むパイオニアの方々に登壇いただき、技術面・組織面双方の課題に対して気づきを得られる基調講演、パネルディスカッションを実施いたしました。
昨年に続き、約1400名の研究開発者やDX推進担当者をはじめとした方にお申し込みいただき、大盛況のうちに終了しました。

当日の詳しいハイライト・レポートは以下の記事よりご覧ください。

多くのセッションで参加者の方から積極的にご質問いただき、その中でも、「製品開発者目線のMI推進 新設チームの1年を振り返る」をテーマに講演いただいたデクセリアルズ株式会社の高田氏のセッションでは、30以上のご質問をいただきました。当日すべてに回答できなかったことから、開催後、参加者のみなさまにいただいたQ&Aに1つ1つご回答いただきました。

その中でも多かった質問へのご回答内容を一部抜粋してご紹介します。MI推進の当事者ならではの目線でご回答いただいておりますので、ぜひご一読ください。

高田 善郎さんのプロフィール写真

高田 善郎

Yoshiro Takada

デクセリアルズ株式会社オプティカルソリューション事業部 商品開発部 OS開発課 統括係長

2010年 千葉工業大学大学院生命環境科学専攻修了、同年、埼玉県の化成品メーカーに入社し、ゴム製品の開発業務に従事。
2015年にDexerials株式会社に入社して以来一貫して事業部の光学材料開発に携わり、配合設計や物性測定、塗工プロセス検討など幅広い業務を経験する。
2021年に自ら事業部のDX推進担当に志願。DRを中心とした開発業務のBPAを進めるかたわら、開発DXのあるべき姿を模索する中でデータサイエンスやMIに強い関心を抱く。
2023年からはDXおよびMI専任部署のチームリーダーを任され、複数の開発チームと協力してPoCを進めながら、事業部のみならず社内全体へMIを普及させるため奔走している。

社内データをMIに利用するにあたってデータのマイニングはどのように行われたのでしょうか?

もともと組織内で過去実験データ集約プロジェクトが進んでおり、テーマ単位のデータはまとまって保存されていたので、そこからデータを抽出して分析を行いました。

一つのテーマだけ分析するなら問題ないのですが、複数テーマを横断して分析しようとすると、欠損値が多い、同じ物性値でも列名が統一されていない、などの理由で思うように分析できないことも多く、実験室の標準化を進めていく必要性を改めて感じております。

推進チームの立ち上げのお話、興味深いです。チームメンバー4名は、どのように選択したのでしょうか。指名制でしょうか。

私自身は推進をやりたいと志願していましたが、他のメンバーについて私から指定はしておらず、キャリア面談などで「DXに取り組みたい」という意欲を示した部内メンバーをアサインして頂いたと上長から聞いております。
MIやプログラミングの実務経験者はいませんでしたが、私を含めたメンバー全員が製品開発実務経験者であったからこそ、製品開発者に寄り添った、製品開発目線のMI推進を実践できていると考えています。

ツールの探し方、選定基準を詳しく教えていただきたいです。

ツール調査はWeb検索を中心に行い、気になったツールからベンダーへ問い合わせし、面談の場で詳細を確認していきました。リストアップしたツール数は20製品程度で、面談を実施したのは10社程度です。
ツール調査と並行して行ったのが、MIで達成したい共通目標の設定です。現状課題、ありたい姿、達成すべきフェーズを製品開発チームと議論することで、各フェーズ達成に必要なツールの選定基準を明確化することができました。第1フェーズでは「過去データから配合組成や物性値の予測ができること、始めやすいこと」を重視しましたが、第2フェーズ以降はまた別の選定基準を設定しています。

選定基準に「特定のアルゴリズムが使えること」を入れることもあるのですが、その場合も先に解決したい課題を定義し、その課題にアルゴリズムがどう貢献できるかを説明していくことで、スムーズに合意形成ができると感じています。

チームの方々のMIに関連する勉強方法を知りたいです。特に、どの言語も使ったことのなかった方もいらっしゃると思うので。

主な学習法が、Web上でMIに関する記事を読む、MIのウェビナーを受講する、などであることはチーム設立当初から現在でも変わっていませんが、より効率的に学ぶためには「実務課題と関連性が高い分野」からスモールスタートで学習するのが良いと考えています。短期間で集中的に学習するだけでなく、業務の中で日々学習を続けられる環境や習慣を作ることも重要だと感じています。

プログラミング言語を知らないメンバーも、身近な課題についてスモールスタートで学習する点に変わりありません。いまは生成AIと相談しながらコーディングができる時代ですし、ノーコードツールも世の中に充実していますので、その方のスキルレベルに合った作業環境を用意すれば、プログラミング言語を知らなくても十分にMI人材として活躍できると考えています。

MIを学ぶ深さについて質問致します。御社では、どこまでの深さの理解を目標に進められているでしょうか?

MIを使って何を実現したいのか、MI実践者なのか推進者なのか、など、各個人の状況によって必要な学びの深さ・広さは変わると考えているため、現時点では一律の学習目標を立てておりません。PoC段階では学習目標を設定するよりも、互いの学びを共有して視野を広げることを優先しておりました。

現在は他事業部へのMI横展開活動をスタートしていますので、人材育成のための学習目標設定にも取り組んでいます。

現場チームとの「共通目標の納得感」について、納得感を得る過程での苦労や工夫などあれば教えていただけますでしょうか。

苦労した点は、講演の最後にお話した「As-Isは批判的に、To-Beは冒険的に、Can-Beは計画的に」を実行するための、会議ファシリテーションです。自分より上のレイヤーの方々と議論することも多く、私の力だけでは議論をまとめられないシーンもありましたので、トップダウンで合意形成をサポートして頂けなかったら、もっと時間がかかっていただろうと思います。

工夫した点は主に2つあります。

  1. 達成すべきフェーズを設定すると共に、達成することで得られるメリットもフェーズごとに提示することです。ビジョンを掲げるのは容易ですが、そこに至る道のりと、途中過程で得られるメリットを示すことで、「フェーズ3までは難しくても、フェーズ2まで達成できれば十分メリットあるよね。それなら頑張ってみよう。」といった形で目標に対する納得感を高められると考えています。
  2. PoC初期段階で、MIへの腹落ち感を得るための確かめ算テーマを実施したことです。既に回答がある課題にMIを適用したことで、他ならぬMI推進チーム自身のMIに対する納得感を高めることができ、自信を持ってMI推進を行うことができるようになったと感じています。

いかがでしたでしょうか。本記事では、MI Conf 2024「製品開発者目線のMI推進 新設チームの1年を振り返る」にご登壇いただいた高田氏より、参加者の方からいただいたQ&Aを一部抜粋してご紹介いたしました。

記事でご紹介した以外にも、MI推進者としての意思決定やマネジメントの観点など、MI推進1年目の今しか聞けないリアルな回答をいただいています。その他のQ&A、講演のアーカイブ動画は以下で公開していますので、ぜひご覧ください。