朝田 泰広Yasuhiro Aasada
  • 大成ファインケミカル株式会社
  • 樹脂事業部 技術G G長

開発全体を統括し、各メンバーが担当するテーマの早期立ち上げをフォローするといったマネジメント業務を担う。同時に、自らも一部のテーマを担当して研究開発に携わっている。研究開発のDX推進の事務局として推進役を務め、研究開発のテーマにmiHub®を活用し、研究テーマの開拓や運用をリードしている。

大場 雄貴Yuki Oba
  • 大成ファインケミカル株式会社
  • 樹脂事業部 技術G 主任

新規素材や受託案件の開発業務に従事。中途入社で開発部門に配属され、従来の経験則に基づく開発をさらに進化させるべく、改革の一手としてmiHub®︎の導入提案段階から携わる。現在も研究開発のDX推進役を担っている。

アクリル系樹脂をはじめ、特殊機能性コーティング剤や顔料分散体など、幅広い領域で開発から製造、販売までを一貫して手がける大成ファインケミカル株式会社。創業100年を超える歴史の中で培った「化学の力」で顧客の高度な要求へ柔軟かつ迅速に応えると共に、イノベーションを通じた新たな価値を創出し、お客様の課題解決に貢献しています。

同社では、2024年頃よりマテリアルズ・インフォマティクス(以下、MI)導入の検討を開始し、同年にmiHub®を導入、さらに2026年には同社の研究員を対象としたワークショップも実施されました。組織におけるMI活用と定着の試みについて、樹脂事業部 技術グループ グループ長 朝田 泰広様、主任 大場 雄貴様にお話を伺いました。

高度化する市場要求に応えるため、研究開発の新たなアプローチを模索

まずは、貴社の事業概要についてお聞かせください。

朝田

大成ファインケミカルは、「樹脂合成」「分散」「塗料化」の3つのコア技術を基盤に、材料面から産業を支える化学メーカーです。私が所属する樹脂事業部では、主にアクリル樹脂の開発・製造を担っており、インキや塗料をはじめ、建材や電子材料など、多様な用途に向けて樹脂を提供しています。いわゆる受託開発を行っており、お客様の細かなニーズにお応えする「少量多品種」の製品展開が事業のベースとなります。

受託案件と自社開発とでは、研究開発のアプローチは異なるのでしょうか。

大場

そうですね、かなり異なります。受託案件で最も重視されるのは「いかに早くスケールアップできるか」です。お客様から指定された原料などの枠組みの中で目標値をクリアし、迅速に量産化するスピードと確実性が求められます。

一方、自社開発の場合は完成形が見えない状態からスタートします。我々自身がコンセプトを設定し、ゼロから目標に向かって進めていくので、目指すものも進み方も別物ですね。

その上で、当社の新規開発における強みは、長年の受託事業で培ってきた情報収集力だと考えています。受託案件は大手企業のお客様から寄せられることが多く、必然的に市場の求めるニーズをいち早くキャッチできます。タイムリーな市場動向に基づく新規開発ができるからこそ、自社開発した製品をお客様に提案しやすいという好循環が、当社ならではの強みです。

素材を取り巻く環境や、当時の課題について教えてください。

朝田

近年、市場から求められる機能や性能は急速に高度化しています。たとえばインキや塗料のように長く使われる製品もありますが、電子材料分野は要求性能が年単位で変化しますし、なかでも半導体関連は非常に変化が速い領域です。このスピード感に応えられなければ企業として生き残れません。だからこそ当社には「柔軟かつ迅速に対応する」姿勢が根付いており、高度な要求に応える合成技術には自信があります。

大場

反面、やはり課題もありました。ご要望に応え続ける大変さがあるとはいえ、受託案件ではやるべきことが非常にクリアです。業務の想定がしやすいからこそ取り組む上での心理的なハードルも低いのですが、いざ、自分たちで新しいものを作るという挑戦のフェーズに踏み込むと、受託案件の感覚ややり方から脱却しづらいという課題がありました。

また、ポリマー業界特有の傾向で言うと、モノマーに開始材を入れれば何らかのポリマーができてしまい、ポリマーに何らかの添加剤を入れれば素材ができあがってしまいます。作ればできるというプロセスが明確なので、少なからぬ人達が「過去の経験や勘で物性を合わせる」という手段を選択しがちで、私たちの所属部署にもそういった風土がありました。

朝田

新規テーマの立ち上げにおいても、過去のレシピや要求性能へのアプローチは研究者個人の知見に依存しており、良くも悪くも「経験と勘」に頼る部分は多かったと思います。

大場

ナレッジやノウハウは価値ある資産ですが、近年では尖った性能を求められる開発が増加傾向にあり、経験則の範囲だけで開発を続けるのは難しくなるだろうという危機感がどんどん大きくなっていました。

研究者が自らデータを活用できることを重視し、miHub®を導入

そうした課題から、MI導入に至った経緯を教えてください。

朝田

当社では数年前から全社方針としてDX推進が掲げられており、研究開発部門でも「より効率的な仕組みづくり」を模索していました。経営層からのトップダウンの方針と、現場の「新しい手法を取り入れたい」というボトムアップの想いが合致したことが、MI導入のきっかけです。 

また、これまで研究者の経験や勘から多くの成果を生み出してきましたが、目標到達まで遠回りしていると感じていたのも事実です。試行錯誤は研究開発において価値あるものですが、過去のデータを活かせば避けられた実験も少なからずあったはずです。蓄積してきたデータから法則性や相関を見出し、研究者の経験とデータを融合させられれば、もっと研究開発をスピードアップできるのではないかという想いがありました。

大場

具体的なツールを検討する段階でも、実は「扱うデータ量も限られているし、統計解析機能もあるExcelで十分ではないか」という意見が出ていました。とはいえ、社内の誰もがExcelで数式を組んだり複雑な処理を使いこなせるわけではなかったので、Excelでは「できる人が、よりできるようになるだけ」という新たな属人化を生む可能性を危惧していました。我々が目指したかったのは、一部の専門家だけでなく“誰もが解析データを使いこなせる環境”です。統計学の専門知識がないメンバーや、将来的に文系出身者が加わる可能性も考慮し、直感的に操作できる「ユーザーインターフェース(UI)」を重視しました。その結果、「組織全体で知見を共有できるソフトウェア」という方針に最もフィットしたのが、miHub®でした。

具体的にmiHub®のどのような点が決め手になったのでしょうか。

大場

決め手は価格面と「当社の開発スタイルへの適合性」でした。我々は研究開発の専門家であって、データ解析の専門家ではありません。だからこそ、研究者が日々の実験と並行して、配合条件や実験結果をデータとして整理し、自ら解析できることを重視しました。

朝田

現場としても「直感的にボタンを選んで進められる」UIのわかりやすさは大きかったです。データの可視化や相関解析といった本来なら複雑な処理が、統計やプログラミングの専門知識なしでも実行でき、当社が求める操作性に合っていました。

大場

やりたいことを叶えられるツールとして、役員らとの導入協議でも迷うことなく全員一致で採用が決まりました。

実際に導入した当初の取り組みについても教えてください。

大場

最初のフェーズで重要なのは、社内に定着させることです。「現場が重要性を理解し、継続的に実践してくれるか」という点を重視し、miHub®︎の価値や利用目的の認識合わせから結果検証に至るまで、チーム内でコミュニケーションを取りながら使っていく状態を目指しました。

朝田

確かに、現場を巻き込んでいけるかどうかが最大の壁だと感じていたので、社内浸透に注力し、全社イベントの研究開発報告会で成果を発表するといった取り組みを続けてきました。導入3年目となる2026年には、開発メンバー参加型のワークショップを実施しました。若手からベテランまでMIの本質を浸透させ、業務に積極活用できるようにするための働きかけを継続しているところです。

MI導入で試作数を43%削減し、開発期間を9ヶ月短縮 。MI活用が具体的な成果へ

定着フェーズから成果が出るまでのプロセスや、具体的な成果について教えてください。

大場

miHub®︎を導入してすぐに、開発期間が劇的に短縮したわけではありません。先ほど申し上げた通り、最初の成果に定めていたのは、研究者が目的や説明変数を設定し「結果の妥当性をチーム内で議論しながら実践できること」でした。そうして手探りで進めていくうちに、「自分も試してみたい」「こんな成果が出た」という事例が生まれ始め、そこから他のメンバーもMIやmiHub®︎に興味を持って聞きに来てくれるという好循環ができていきました。

朝田

初年度は社内への浸透という意味ではまだ不十分でしたが、全社向けの研究報告会などで「MIは実務で使える」と地道に発表を重ねて意識付けに注力しました。本格的に風向きが変わり始めたのは、導入2年目を過ぎた頃からです。

3年目を迎えた2026年現在、「バイオマスアクリル樹脂」の開発において、明確な定量的成果を生み出すことができました。経験と勘による試作の繰り返しから脱却し、条件や結果をmiHub®で解析することで、有望な配合領域を早期に見出すことができました。具体的には、MI導入前は35点ほど行っていた試作が20点ほどで済み、試作数を約43%削減。さらに、試作から評価に至るサイクル自体も8回から5回へと38%減少しました。その結果、従来27ヶ月を要していた開発期間を18ヶ月まで、9ヶ月短縮することに成功しています。

大場

私自身、導入を主導した立場としては、成果をこのような形にできたことでほっとしました。

組織全体へ展開するうえでのハードルはありましたか。

大場

既成概念を打破することですね。化学分野では「試作の数をこなすことこそ正義」という文化が今なお根強く、最初から全員がMIの活用に前向きだったわけではありません。ただ、従来の延長線上を走り続けるだけでは未来への道が拓けない、と地道に組織に対する理解浸透を推進していきました。

朝田

そういう心理的なハードルを越えるためにも、まずは既存データが豊富なテーマで「小さな成功体験」を作ることを意識しました。実際、エマルジョン重合の解析では攪拌回転数が粒子径に与える影響が明確になり、経験則をデータで裏付けることができたのです。さらに、解析スキルの個人差を埋めるためには、実テーマの事例を共有し、メンバー同士で学べる環境も整えました。

現在は「利用者の拡大」という次フェーズに入っています。ツールを真に定着させるには、研究者自身が日々の業務で「データをどう整理し、どう解析するか」を実践し、深く理解することが不可欠です。だからこそ、現場一人ひとりと対話しながら、小さな成功事例を積み重ねることが何より重要だと感じています。

他の事業部からの反応や課題はいかがでしょうか。

大場

「大変そう」という印象があったようですね。「最初からデータを揃えなければならないのか」という点が心理的なハードルになっているようです。先行事例の成果を見て素晴らしいと感じる一方で、いざ自分が取り組むとなると「どこから手をつければいいのか」と尻込みしてしまう。このハードルをどう下げるかが課題ですね。

朝田

我々の目から他事業部のテーマを見ても「MIを使えばもっと良くなるのに」と感じる部分はたくさんあります。同じ会社の仲間として、彼らが「解析をやってみたい」と思った際に、利用を希望する研究者がスムーズに取り組める環境を整えていきたいです。

MI-6のサポート体制についてはいかがでしょうか。

朝田

我々はMI-6を“研究開発DXを共に進めるパートナー”だと捉えています。「データ活用を組織文化としてどう定着させるか」という壁に突き当たった時も、単なるツールのレクチャーにとどまらず、組織の悩みに寄り添った具体的な提案をしてくださいました。開発メンバー参加型のワークショップも、まさにMI-6からの提案で実現したものです。「ツールを入れて終わり」ではなく、教育支援や定期的な解析ミーティングなど手厚く伴走していただいています。

例えば先週のミーティングでも、若手メンバー2人がテーマや目標を自らの言葉で説明し、MI-6のデータサイエンティストの方と直接ディスカッションしていました。ツールの定着はもちろん、彼らの確かな成長を感じられたことも非常に嬉しく思っています。

大場

DX推進においてmiHub®は手段の一つであり、導入以上に重要なのは、当社にとって理想的な運用体制の構築です。つまり、組織全体で「どう運用体制を作るか」というシステム構築そのものが、DX推進の本質だと捉えています。最近では現場から自発的に「こんなことを試したい」という声も出るようになりました。こうした声をすくい上げながら、MI-6と一緒に理想の運用体制を“共創している感覚”があります。

基盤と体制を整備し、データ駆動型研究開発の確立へ

今後の展望とMI-6への期待をお聞かせください。

大場

お客様の求める機能と材料特性を紐づけるには、異なるテーマでも共通基準で比較・評価できるデータベースが不可欠であり、当初からこの「マスターデータ構築」を見据えて運用を進めてきました。今後、MIの利用を拡大させていけば、新テーマが立ち上がった時に「過去データ不足」の壁に直面することが予想されるからです。そのため、異なるテーマで得られたデータも活用できるよう、半年ほど前から分析項目や実験条件の記録方法を統一し、データの蓄積を進めています。今後は、こうしたデータをテーマ横断で参照・解析できる基盤を整えることで、新たな研究テーマの立ち上げや、過去の知見を活かした開発につなげていきたいと考えています。

朝田

現場の直近の目標は、より多くのメンバーが日常的にmiHub®を使える環境づくりです。解析用アカウントの増枠に続き、来年度以降も拡充を進めていく予定です。一人ひとりがデータに基づき仮説立案や意思決定を行い、知見を組織全体で共有する「データ駆動型の研究開発体制」を確立し、さらなる開発期間の短縮と生産性向上につなげていきます。

さらにその先に見据えるのは、事業ポートフォリオへの貢献ですね。樹脂事業部の強みと研究開発DXを掛け合わせ、会社のさらなる成長を牽引する新たな事業の柱を創出したいと考えているので、MI-6には、今後も我々の挑戦に伴走していただけると心強いです。

最後に、MIの導入を検討している企業へメッセージをお願いします。

朝田

我々の所属する樹脂事業部には約85名が在籍しており、そのうち開発担当は約10名です。一般的に「MIは大企業向け」と思われがちですが、限られたリソースで競争力を高めなければならない中堅・中小メーカーにこそ、むしろ非常に有効な選択肢だろうと実感しています。導入当初は手探りのスタートでしたが、小さな成功体験の積み重ねが、開発期間の短縮や新たな知見獲得につながりました。今後は、我々が起点となって他事業部を含めた全社に向けてMIを波及させていくことで、全社の事業成長に寄与していきたいと考えています。

今後も当社は、研究者の経験とデータを融合させながら、データ駆動型の研究開発に挑戦し続けていきます。我々の取り組みが、これからMI活用を始める企業や、組織への定着を目指す企業にとって、一つの参考になれば嬉しく思います。

朝田様、大場様、ありがとうございました!

※掲載内容は取材当時(2026/9/14)のものです。


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