課題:低温性能とウェットグリップ性能を、破壊強度に優れたタイヤ用途向けゴム組成物の探索
タイヤ用途向けにゴム組成物を開発している。冬用タイヤやオールシーズンタイヤなど冬の雪道も走行可能なタイヤでは、ウェットグリップ性能とともに硬度(低温性能)が求められる。低温性能を付与するためにガラス転移温度の低いブタジエンゴムを配合すると、ゴム組成物全体のガラス転移温度が低くなってウェットグリップ性能が悪化する。また、ウェットグリップ性能を改善するために樹脂を添加すると、ガラス転移温度が高くなり低温性能が悪化するという傾向がある。このように低温性能とウェットグリップ性能はトレードオフの関係にあり、両立することが困難である。
また、これらの雪道を走行可能なタイヤでは、一般にトレッドのブロックサイズが小さくなるため、破壊強度の維持が課題となっている。ゴム組成物においては、大量に配合するシリカの分散制御が難しいため、破壊強度を維持することが難しい。
本検討では、低温性能とウェットグリップ性能を維持しながらも、破壊強度を向上させるゴム組成物の処方検討を行った。具体的には、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、シランカップリング剤、樹脂、加硫促進剤、フィラー、添加剤の配合最適化を実施した。
解決策:「特徴量テーブルの結合」および「最適条件の探索」を用いたベイズ最適化による処方検討
本検討では、低温性能とウェットグリップ性能、破壊強度の最適なバランスを達成するために、ベイズ最適化を活用して処方検討を行った。特徴量テーブルの結合設定を行い、配合に用いるゴムのガラス転移温度やビニル基含有率、樹脂に含まれる特定成分の含有率と軟化点を物性情報として用いた。特徴量テーブルの結合設定は、ゴムや樹脂などの物性情報を、それらの配合量に対して加重平均することで密なデータに変換でき、予測精度や探索性能の向上が期待できるため活用した。
初期データセットは28点からスタートし、「ベイズ最適化の候補点から選択」のアプローチを用いて探索を行った。
ベイズ最適化で生成した実験候補点を選択する際には、「最適条件の探索」で表示される平行座標プロットから、候補点が実測点に対してどのような処方なのか、特に既存の実験条件との差分を確認しながら実験点を選択した。
結果:広い探索条件の中から重要因子を特定し目標物性を満たす処方を発見
ベイズ最適化を用いて解析と実験のサイクルを計8回実施し、データ数を28点に34点の実験データを追加し、62点となった。結果、低温性能、ウェットグリップ性能、および破壊強度の目標を満たす処方を見出すことができた。第5サイクルまでは大きな物性改善が見られなかったが、第6サイクルの実験で低温性能が大幅に向上する結果が得られた。この処方を基に特定の樹脂に関して、探索範囲を狭く設定し、サイクルを継続した結果、第8サイクルにおいて目標物性を満たす処方が得られた。重要特徴量の解析結果と研究者間での議論から、樹脂中の特定成分がウェットグリップ性能および破壊強度に寄与し、また特定のシランカップリング剤が低温性能に寄与していることが判明した。一方、モデル精度は0.1~0.6の範囲から0.3~0.6に向上したものの、現在の材料配合のみの条件ではこれ以上の性能改善は困難であると判断した。
今後は、ゴムの製造条件にも着目し、プロセス面からの物性改善を目指すとともに、さらなる性能向上のため、新たな配合材料およびプロセス条件を含めた検討を進める予定である。
