はじめに

倉敷紡績株式会社は、祖業の繊維をはじめ、現在は化成品や環境メカトロニクス、食品・サービスなど幅広い分野に事業を展開し、人々の暮らしと産業を支えています。

同社の研究開発を担う技術研究所 基盤技術グループでは、2013年頃よりマテリアルズ・インフォマティクス(以下MI)導入の検討を開始。2020年にHands-on MI®を導入いただきました。以降、技術研究所ではMIを中核においたデータサイエンスの展開を加速しており、同社の繊維事業が独自に開発した新規素材NaTech®の研究開発にも活用されています。

今回は、当時技術研究所長として取り組みを牽引された八木様と、基盤技術グループの萩谷様、南條様、宮崎様に、Hands-on MI®をご利用いただいたご感想についてインタビューさせていただきました。活動を通して、データに対する意識やスキルの向上を実感され、組織風土にも変化が見られたとお話しいただきました。

八木 克眞さんのプロフィール写真

八木 克眞

Katsuma Yagi

倉敷紡績株式会社技術研究所 所長 (Hands-on MI®導入時)

Hands-on MI®導入時、技術研究所 所長としてMI導入の取り組みを牽引。入社以来、様々な部門で多岐にわたる業務をご経験され、2013年に技術研究所の所長に着任。現在は技術研究所と知的財産部の両部門担当する顧問として、マネジメント全般をサポートしている。

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萩谷 英一郎

Eiichiro Haginoya

倉敷紡績株式会社技術研究所 基盤技術グループ 主任研究員

入社後技術研究所に所属され、製品開発に携わる。その後他部署での業務を経験、2021年より現職。現在は主任研究員としてこれまでの経験を活かしながら新製品開発をリードしている。

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南條 祐子

Yuko Nanjo

倉敷紡績株式会社技術研究所 基盤技術グループ 研究員

基盤技術グループ 数理科学チームにて製品開発段階での物性予測やメカニズムの究明に従事。主に数値解析や熱流体シミュレーションなどの解析業務に携わっている。MIの取り組みでは解析を実行する立場として、実験者と積極的にコミュニケーションを行い、組織推進を牽引している。

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宮崎 千夏

Chinatsu Miyazaki

倉敷紡績株式会社技術研究所 基盤技術グループ 研究員

基盤技術グループ 物質科学チームにて開発に従事。バイオのバックグラウンドを活かして機能性繊維素材の開発に携わっている。MIの取り組みでは導入当初から主担当としてテーマ遂行やグループ内での啓蒙活動をリードしている。

インタビューの本編は、MI-6のコーポレートサイトにご紹介しておりますので、そちらもぜひご覧ください。

本記事では、本編ではご紹介できなかった部分も含めご紹介いたします。

MI導入の経緯と選定理由

皆様が所属する技術研究所では、「新たな研究所」への変革というミッションの実現に向けて、情報科学や計算科学の手法を活かした技術探索のタスクを興す構想をお持ちでした。そのアプローチを探索する中でMIに着目して導入を検討されました。

MI導入にあたっては、知見を持つ専門家によるサポートが重要だと考え、MI-6のHands-on MI®を選定されました。サポート体制や、実際の開発プロジェクトでのMI活用における伴走支援が期待できる点が決め手となり導入いただきました。導入経緯の詳細については、ぜひ本編もご覧ください。

MI導入当初について

MI導入当初、研究開発に携わられている宮崎様はMIについて学会等で認知しておられ、「今後MIが業界標準になった場合に、競合他社が導入し、活用し始めたら差をつけらるかもしれない」という強い危機感を抱いておられました。計算科学をバックグラウンドとしてお持ちの南條様は、「社内のデータを解析して新たな知見獲得につながるようなメッセージが出せるのではないか」と考えていらっしゃいました。

MI-6との取り組みを開始して何度かデータのやり取りを繰り返すうちに、どのようなデータの量・質であれば、MIが適用できるのか理解が進んできたとお話しされています。一方で、現状の社内でのデータの取得状況やデータの扱い方に課題感をお持ちになりました。
毎日実験をしているのでMIの解析に使えるデータがたくさんあると想像しておられましたが、実際は網羅的にはデータは取られておらず、短サイクルの実験のスポットデータが多いという状況が見えてきたのです。

当時技術研究所を統括していた八木様は、「20年、30年と研究を続けている研究員は、これまでの経験と勘から時間をかけずに最適条件を見出せてしまうため、特定の人や目的にしか使えないデータセットがあるのは事実。MIの検討にあたり、現場で試行錯誤している様子が伝わってきました。」と当時を振り返っていらっしゃいました。

MI導入後の取り組みについて

MIの検討に伴いデータの扱いだけではなく、社内外のメンバーとのコミュニケーションの場面でも苦戦した、とお話しいただきました。

宮崎様は、MI-6とのコミュニケーションにおいて次のようにお話しされています。「当初は、データをお渡しすれば所望の解析結果が出てくると思っていました。しかし、開発テーマの背景や目的を伝えないと自分たちがイメージする解析にならないことがわかり、少しずつ伝え方を工夫していきました。」

主に解析を担当されている南條様は、「実験者とのコミュニケーションに苦戦しました。実際に実験現場を見学して実験の手技や、ばらつきが発生する視点からも理解を深めて行きました。」と当時を振り返っておられます。

検証がある程度進んだ段階でジョインされた、研究開発に携わる萩谷様は、当初は経験則に沿って開発を行うことに慣れており、MIの取り組みに葛藤があったとのことです。そこからメンバーとの対話を通じて徐々に理解を深めていかれました。「実験側として、短サイクルの実験を繰り返すことに対する危機意識は根底にあったと思います。メンバーとのやり取りを通じて、計画的にデータを取ることや、データの傾向を見てアクションを提示することは、我々もこれからやっていかないといけないんじゃないか、と意識が変わりました。」とお話しされています。

また、MIをチームのテーマとして掲げ、一定期間成果を報告するということも継続されました。その取り組みにより、基盤技術グループのメンバーがMIというものに少しずつ慣れてきて、データの重要性に気づき始めた、と実感されたとのことです。

MI活用検討を通して社内に起きた変化とは

試行錯誤しながらMIの取り組みを進めてきた基盤技術グループの中で、ある変化が訪れました。実験に携わるメンバーが、’データをもとに物事を考え、語る’姿が以前よりも多く見られるようになってきたのです。

実験に携わるメンバーと解析を実行するメンバーの間でのコミュニケーションが増え、解析がしやすいデータの取り方や、今あるデータから傾向が見出せるか、など、データについてのディスカッションが盛んに行われるようになりました。MI活用の取り組みを経て、基盤技術グループの中ではメンバー個人のデータ解析に対する意識が向上したり、研究開発の風土が少しずつ変化してきたことに対し、皆様より喜びの声を伺うことができました。

いかがでしたでしょうか。本記事が、MI導入を検討されている皆様に少しでもご参考になりますと幸いです。

本編では、実際の取り組みの進め方や成果について、より詳細にご紹介しています。ぜひ本編もご覧ください。