はじめに

この数年間で、ものづくり産業の研究開発においてMIの導入・推進が急速に拡大しています。一部の研究チームにおける試験導入だけではなく、MIの全社展開に着手する企業も目立つようになりました。

今年で第2回目となる、マテリアルズ・インフォマティクスに特化した最大の祭典「MI Conf 2024」が、9月末オンラインにて開催いたしました。「MI推進の先駆者が語る、成果が出るまでの舞台裏」にフォーカスを当て、まさにMI実装に取り組むパイオニアの方々に登壇いただき、技術面・組織面双方の課題に対して気づきを得られる基調講演、パネルディスカッションを実施いたしました。
昨年に続き、約1400名の研究開発者やDX推進担当者をはじめとした方にお申し込みいただき、大盛況のうちに終了しました。

当日の詳しいハイライト・レポートは以下の記事よりご覧ください。

Q&Aセッション

多くのセッションで参加者の方から積極的にご質問いただきました。
本記事では、「MI普及をきっかけに科学的考察を深化させる」をテーマにご講演いただいたMOTコンサルティング株式会社 代表取締役神庭氏と、「MI推進のアンチパターンとその回避方法」をテーマにご講演いただいたJSR株式会社 リサーチフェローの大西氏の質疑応答のご紹介をいたします。

MI推進の当事者ならではの目線でご回答いただいておりますので、ぜひご一読ください。

神庭 基さんのプロフィール写真

神庭 基

Motoi Kamba

MOTコンサルティング(株) 代表取締役デジタル技術経営研究所 代表

旭硝子(株)(現AGC㈱)に入社後、中央研究所研究員、米国営業拠点立ち上げ、新規事業BU長、開発部企画グループリーダー、情報システム部門長&グローバルITリーダー、知財部長と様々な部署を経験し、2019年4月に役職定年を迎えました。役職定年後は研究開発部門のDX推進チームの企画と立ち上げを行い、一方で副業として個人事業「デジタル技術経営研究所」を設立いたしました。
2023年4月にAGC㈱を定年退職後、副業の事業拡大に伴い同年6月に法人「MOTコンサルティング(株)」を設立し新規開発テーマ創出プロセスの導入、研究開発DX普及支援、中小企業様へのDX支援等を行っています。

大西 裕也さんのプロフィール写真

大西 裕也

Yuya Onishi

JSR株式会社 リサーチフェローRDテクノロジー・デジタル変革センター マテリアルズ・インフォマティクス推進室 次長

2009年 京都大学大学院工学研究科分子工学専攻 博士課程修了。フロリダ大学、イリノイ大学博士研究員を経て、神戸大学大学院システム情報学研究科にて特命助教、助教。
2017年 JSR株式会社入社。専門は、量子化学、計算化学。マテリアルズ・インフォマティクスに関し、社外協業を通じた先端技術の獲得と社内ワークフローへの実装を推進。量子コンピュータに関する研究にも従事。

データベースに関して、全社共通を目指すべきか、各事業ごとの整備を目指すべきか、どちらが良いでしょうか?

神庭

全社各部門のすべてのデータを一元管理できるDBが理想です。IT部門等の専門組織が全社のデータ駆動型マネジメントを推進するためにやっているのであればそこに乗って全社共通のDBにするのが理想的です。しかし、そうではないことの方が多いのではないでしょうか。開発部の実験データをマネジメントし、MIを推進する場合は、まずは技術領域毎にデータを活用することで「科学的考察が深まる」であろう範囲でのDBを構築することで十分です。

分析データの蓄積・構造化とは別に、科学的考察に関する、研究者ごとで意見の異なる主観的な情報も記録していくことは可能なのでしょうか?

神庭

研究者毎に意見が異なるのは良いことです。そこを可視化して記録することで共通認識を持つことからスタートすることが重要だと考えています。そこから、どんなデータがあれば異なる意見を検証できるかまで意見交換し、その仮説をデータで証明することで、個人の力もつける事ができ、組織として大事な知見になります。テキストでの情報については、デジタル化し、DBにして検索ツールや生成AIの活用をお勧めします。

取り組みの第一歩目として、進めておくと良いことはありますでしょうか?

神庭

第一歩として、なぜなぜ分析をして説明変数、目的変数とその関連を明らかにし、データを使った議論、考察、対話をしてください。そうすることで、データの重要性、解析の重要性について共通認識ができ、一歩前に進めるはずです。

データの収集や整理に非常にハードルを感じています。いい方法があれば教えていただけますでしょうか。

大西

測定しているが統合できていないデータに関しては、頑張るしかないと思います。測定されていないデータに関しては、追加の測定がnice to haveとなってしまうと測定のための労力を割いてもらうことは難しいと思います。その場合は、追加の測定が問題解決に役立つということを別枠で実証するプロジェクトを作ることになると思います。

あえて予測性能をPoCの精度にしない場合、どのような定量指標をPoCの評価指標にされますでしょうか?

大西

半定量的な指標になりますが、役立ったかどうかのアンケート結果とウェブアプリ化できていれば、アクセスユーザー数を見ています。

アジャイルチームに材料開発現場社員をジョインさせる件ですが、どのようにメンバー選定されてますでしょうか?

大西

管理職より少し手前の開発リーダー的なポジションの方にproduct ownerとして参加してもらっています。開発リーダーは効率化のモチベーションも高く、視座も高いのでよいuser storyを挙げてくれます。

「現場のモメンタムを維持」するのは大変に重要かつ難易度が高いと思っております。本件に絞って思考した場合、最も重要なポイントや手法があればご教授いただきたいです。

大西

管理職を巻き込むことがもっとも重要です。管理職が交替した際には、新たに必要性の説明をします。

組成表をエクセルで入れるのは表記ゆれが問題となりますが、アプリ化していますか?

大西

アプリ化したりELNを採用しています。これはトップダウンの号令がないと難しいと思うので、その号令を出してもらうように意思決定者(決裁権限者)に働き掛ける必要があると思います。

最後に

いかがでしたでしょうか。本記事では、MI Conf 2024にてMI普及をきっかけに科学的考察を深化させる」をテーマにご講演いただいたMOTコンサルティング株式会社 代表取締役神庭氏と、「MI推進のアンチパターンとその回避方法」をテーマにご講演いただいた名JSR株式会社 リサーチフェローの大西氏に、参加者の方からいただいたご質問の回答を一部抜粋してご紹介いたしました。

その他のQ&A、講演のアーカイブ動画は以下で無料公開していますので、ぜひご覧ください。