課題:光沢 / 剛性 / 耐衝撃性に優れたポリプロピレン樹脂コンパウンドの原料価格の高騰
ABS樹脂は、その優れた剛性、耐衝撃性および高い光沢性により、住宅設備部材や家電製品のハウジング材として広く採用されている。しかしながら、ABS樹脂は製造コストが高いのみならず、非晶性樹脂であるが故に耐薬品性に劣るという課題を抱えている。実際、ABS樹脂性の化粧台等の住宅設備や冷蔵庫等の家電製品においては、油等が付着した際に割れる事例が報告されている。
このような背景から、ABS樹脂を耐薬品性に優れ、かつ低コストな結晶性ポリプロピレン樹脂に置き換える検討が進められている。開発当初は、ABS樹脂と比較して剛性および耐衝撃性のバランスに劣るという課題があったが、ポリプロピレン樹脂に加え、高密度ポリエチレン樹脂およびα晶核剤を組み合わせることにより、物性のバランスが良好な処方を確立するに至った。
しかしながら、原料となる樹脂の価格高騰により、生産コストの増大が新たな課題として浮上している。これまでの検討結果を踏まえ、過去に検討した安価な樹脂を処方に加えることで、コスト削減の実現が求められている。
解決策:コストを制約としたベイズ最適化による処方検討
本テーマは過去に検討されたポリプロピレン樹脂4種、高密度ポリエチレン樹脂2種およびα晶核剤1種の配合データ10点を基に処方検討を開始した。過去の検討により、α晶核剤の最適な配合量は既に確立されていることから水準は固定とし、解析においてはポリプロピレン樹脂と高密度ポリエチレンのみを説明変数として用いた。
従来の実験では、ポリプロピレン樹脂4種・高密度ポリエチレン樹脂2種のうち、それぞれから1種のみを選択する組み合わせしか検討できておらず、限られた範囲のデータのみしか取得されていないことが懸念であった。そこで、D最適計画に基づいて実験条件を導出する初期条件生成機能を活用し、樹脂の組み合わせを考慮しつつ、探索範囲の中で偏りのないデータを6点取得した。
取得データを追加した16点の状態から、「ベイズ最適化の候補点から選択」するアプローチにより、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強度、およびグロスの目標値を満たす処方の検討を進めた。なお、3つの物性を満たしつつ使用する原料のコストを現行処方の80%以下まで抑えることが目標であるため、樹脂の配合量と単価を掛け合わせて算出される重み付き和が一定以下となる制約条件を設定して解析を行った。
結果:目標物性を満たしながら、現行配合から15%コストを削減した処方の発見
ベイズ最適化により、コスト制約を満たす実験候補点5点を導出し、実際に実験を行うサイクルを計5回繰り返した。サイクルの過程では特にグロスの改善が難しく、予測値が目標から離れた候補点を出力することが多かった。その場合は、グロスの目標設定を「80以上を満たす」から「80以上を満たしながら最大化」に変更して得られた条件の異なる候補点の中から、予測値がより目標に近い候補点を選択して実験を実施した。このように、設定した解析条件に応じて出力される候補点が異なるので、1サイクルの中でも複数の解析を試して、より納得できる候補点を選択する検討を重ねた。
5サイクルの実行により合計25件のデータが追加され、曲げ弾性率とシャルピー衝撃強度の目標を達成する水準が得られた。グロスは目標値には僅かに及ばなかったものの、初期データからの改善傾向は見られたため、更なるサイクル実施により目標を達成する可能性は十分あると考えた。一方、限られた検討期間内で、今回の樹脂原料の組み合わせでは、現行配合に対して80%以下のコストに抑えて目標を達成する処方を取得することは困難であると判断した。
そこで、コストの制約条件を現行処方の80%以下から85%以下に緩和した結果、制約を満たしながら全ての目標値を達成する処方が次のサイクルにて得られた。得られた処方は、現行処方の原料よりも安価なポリプロピレンを複数種配合しており、製品化に向けた更なる検討を進めている。
キーワード
- ベイズ最適化
- コスト削減検討
- コストと性能の両立
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