課題:印刷品質向上と内部汚染リスクの低減

トナーは、コピー機やレーザープリンターにおいて、静電気を利用して紙に画像や文字を転写するための粉末状インクとして長年使用されてきた。初期のトナーは単純な炭素粉末と樹脂の混合物であり、解像度や転写性の面で限界があったが、技術の進歩により、さまざまな改良が施されてきた。特に、高画質化・省エネ化・環境対応といった市場の要求が高まる中で、小粒径化、低温定着性の向上、バイオマス原料の活用など、材料設計や粒子制御技術が飛躍的に進化している。

近年のレーザープリンター市場では、単に解像度を向上させるだけでなく、プリンター内部の汚染抑制やトナーの飛散防止も重要な課題となっている。特に、小粒径化が進むことで画質が向上する一方で、トナー粒子の飛散が増加し、プリンター内部の部品汚れやメンテナンスコストの増大を引き起こす問題が顕在化している。このため、高画質を維持しつつ、転写性や定着性を最適化し、トナーの飛散を抑える新しい設計が求められている。

そこで、転写性に優れ、高画質な画像を形成しながら、プリンター内部の汚染を抑制できるトナーの開発を目的とし、主トナーと添加トナーを混合した二峰性粒度分布を持つトナーの粒度分布の検討を行った。

解決策:ベイズ最適化を活用したトナーの定着条件最適化

通常粒径の主トナーと小粒径の添加トナーの粒径バランスを調整することで、プリンター内部の汚染を抑えつつ、画質の向上を実現させることを目指した。それぞれのトナーの製造で、分級と濾過ケーキの処理条件を変えることで、異なる粒径を得た。

初期データとして7点用意し、説明変数として、主トナーの個数粒度分布における粒径ピーク値、添加トナーの個数粒度分布における粒径ピーク値、ピーク間の距離、それぞれのピーク強度の比率を用いた。汚染性と画質を定量化した数値を目的変数とし、miHub®にて「ベイズ最適化の候補点から選択」の解析アプローチにより実験データの追加を行った。また、「モデル選択と探索範囲分析による実験点追加」のアプローチにより、主トナーと添加トナーの粒径分布の関係について詳細な検討を行った。

結果:パラメータ制御と新たな知見

まず、ベイズ最適化で解析と実験を2サイクル実施し、初期データ7点から12点まで追加した。その際、ベイズ最適化で算出された粒度分布のピーク値とピーク強度にできるだけ近しい値になるようにトナーサンプルを作製した。この2サイクルの実施により、汚染性・画質ともにベスト値を更新した。初期データでは、汚染性はモデルの精度が低かったが、2サイクルでR2値(相関係数)が0.5まで改善し、一定の予測精度を確保することができたと判断した。

次に、作成した予測モデルから主トナーと添加トナーの粒径分布の関係を考察した。汚染性と画質の値が良かったデータを元に、主トナーの粒径ピーク値を変動させると、ピーク値が大きいほど、汚染性が良くなり、逆に、添加トナーの粒径ピーク値を変動させると、ピーク値が小さいほど、汚染性が悪くなることが示された。これは、小粒径化するほど飛散しトナーが劣化するという既存の知見と一致している。また、ピーク差が大きすぎても汚染性が悪くなることから、2つのピークのバランスが重要であることを確認した。

主トナーと添加トナーの粒径ピークとピーク間の距離について確認したところ、個数粒度分布の4μm以上9μm未満の範囲に主トナーの極大ピークを有し、かつ1μm以上3μm未満の範囲に添加トナーの2番目のピークを有することで、プリンターの内部汚染性が向上するという知見が得られた。

画質については、ベイズ最適化によりベスト値を更新したものの、予測モデルの精度は十分ではなかった。現在使用している説明変数のみでは画質の特徴を説明できておらず、追加すべき変数が存在する可能性が高いと考えた。今後、トナーの帯電量や転写効率、定着温度等の変数をデータに追加し、画質についてより高精度の予測モデルを構築し、トナー設計の最適化を目指す。

キーワード

  • ベイズ最適化
  • スモールデータ活用
  • 要因解析

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