課題:環境負荷低減と性能(高強度、高流動性)の同時達成
コンクリートの産業分野では、ライフサイクル全体で大量のCO2が排出されるため、カーボンニュートラルへの対応が喫緊の課題となっている。特に、従来の高性能コンクリート、中でも高強度コンクリートは、製造時にCO2排出量の多いセメントを結合材として多量に使用するため、環境負荷が増大するという問題がある。
セメントの使用を抑制した低環境負荷コンクリートでは、水の含有量が多くなり、乾燥収縮が起こりやすくなるが、水の含有量を減らすと、コンクリートの流動性が悪化し、硬化時の自己収縮による体積変化・変形が生じるなど、性能や構造物とした時の安全性に関する問題が生じる。
セメント使用を抑制する際の問題解決策としては、結合材としてセメントの他に、高炉スラグ、膨張材、産業副産物として発生するシリカ質微粉末などを使用し、これらの割合を調整することで、セメントの使用量を抑えながらコンクリートの粘性と強度を制御することが可能である。加えて、空隙構造が粗大で吸水率が大きい細骨材を利用することで、内部養生効果により自己収縮が極めて小さくなることが報告されている。
解決策:ベイズ最適化と測定不可能領域を考慮した最適化機能の併用による効率的な実験条件探索
「ベイズ最適化の候補点から選択」のアプローチにより、セメント、高炉スラグ、膨張材、細骨材、粗骨材はそれぞれ2種類ずつ、その他にシリカヒューム、フライアッシュ、水を説明変数とし、各材料ごとに制約条件を設定することで、セメントの使用量や水の含有量を抑えつつ目的の性能をクリアできるコンクリート組成の条件最適化を実施した。また、今回の検討では、コンクリートの流動性(スランプフロー値)、材齢7日目および材齢28日目の圧縮強度の3つの目的変数の最大化を目標とした。なお、試料調整中の材料分離などにより目的変数の評価が不可能であった場合は、「測定不可能領域を考慮した最適化機能」を利用し、それらの周辺条件を回避して実験候補点の導出を実施した。
結果:新組成の獲得と最適解の収束
「ベイズ最適化の候補点から選択」のアプローチにより、合計23点のデータを追加した時点で、セメント使用量をさらに低減し、かつ従来の組成条件とは異なる実験候補点が提示された。これらの実験候補点を評価した結果、材齢7日目と材齢28日目の両方で圧縮強度のベスト値を更新し、流動性の指標であるスランプフローの値も基準をクリアした。
コンクリートの流動性と圧縮強度の最大化はトレードオフの関係にあるが、その後のデータ追加により得られた目的変数の値がパレートフロント付近に分布しており、現在の組成と問題設定においては、これ以上の劇的な性能改善が困難であることが示唆された。
今後は説明変数として細骨材の種類を追加し、収縮歪の最小化によるコンクリートの高強度化を目標として組成最適化を進める予定である。
キーワード
- ベイズ最適化
- パレートフロントの活用
- 測定不可能な結果の学習
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