課題:形状維持性、剥離性に優れたガスケット用UV硬化性樹脂組成の探索
電子機器向けのガスケット材として、UV硬化性樹脂組成物を開発している。
従来より扱われている固体ガスケットは、手作業で取り扱う必要があることに加え、ガスケットの断面形状の種類も限られているため、設計自由度が低いなどの問題がある。近年、UV硬化性の液状ガスケットが多くの電子機器や精密部品に採用されている。液状ガスケットは、複雑な形状への対応や、ディスペンサー(塗布装置)による自動塗布が可能となり、省人化・低コスト化にも繋がっている。そのような中、電子機器の多用途展開に伴い、UV硬化性のガスケット剤の成形工程に設計の自由度が求められている。
UV硬化性樹脂組成物は、ロジン誘導体を含めることで粘着性が高まるが、部材とUV硬化性樹脂組成物との界面から容易に剥離しない問題があった。また、ガスケット剤においては、塗布の最中や、UV硬化の工程に移る間に、塗布したUV硬化性樹脂組成物の形状が変化してしまい、これにより狙った形状が崩れてしまうことや均一な塗布形状にならない場合があった。
ロジン誘導体を含まず、形状維持性、剥離性の高いUV硬化性樹脂組成物を開発するため、アクリレートオリゴマー、アクリレートモノマー、メタアクリレートモノマー、光重合開始剤、添加剤3種類の配合最適化を実施した。
解決策:ベイズ最適化とLASSO分類モデルによる解析・実験
初期データ数は、ロジン誘導体を含む配合組成も含めて7点ある。形状維持性と形状維持性に関係するTI値(Thixotropic Index)、弾性率を目的変数として、miHub®にて「ベイズ最適化の候補点から選択」の解析アプローチを行った。
剥離性は、糊残りもなく容易に剥離したものを合格判定とし、数値化できないため◯/✕のカテゴリ変数として扱った。どのような条件で剥離性が✕となるのかの傾向が把握できることを期待し、miHub®の「モデル分析と探索範囲分析による実験点追加」のアプローチから、Lasso分類モデルを用いて解析を行った。
制約条件として、選択した材料の配合量が全体で180以下となるように設定した。また、アクリレートオリゴマーについては原料数制約の設定も行った。
結果:重要特徴量と生成した候補点の予測値から、剥離性を悪化させる因子を特定
ベイズ最適化で解析と実験の4サイクルを回し、7点から21点までデータを増やし、形状維持性、TI値、弾性率は順調に最適化が進み、良い結果が得られた。特に、TI値と弾性率は、ガウス過程回帰モデルの交差検証のR2値(相関係数)が0.9以上の高い値が得られ、実測値でもTI値はベスト値を更新した。
一方、得られたデータの中で剥離性の評価結果が✕判定になるものがあったので、剥離性についてLasso分類解析を行った。分類モデルの重要特徴量のグラフから、メタアクリレートモノマーの配合量が多いと剥離性が悪くなることが示された。これまでのデータの中でTI値と形状維持性が良く、かつ剥離性が◯だった条件を元に、メタアクリレートモノマーの値を変動させた候補点を生成し、剥離性の予測値を確認した。結果、一定の値以上で✕となる傾向が確認できた。これまでの実験データも含めて見返したところ、メタアクリレートモノマーの配合量が、アクリレートオリゴマー、アクリレートモノマー、メタアクリレートモノマーの合計重量比の3割以下の場合、有効な剥離性が得られているという知見が得られた。
最終的に、メタアクリレートモノマーの配合比率に関する新たな知見を制約条件に加えて、ベイズ最適化を再度実施した。得られた候補点を実験評価したところ、形状維持性、剥離性の高いUV硬化性樹脂組成が得られた。