課題:生分解性繊維の高強度化に向けた配合・プロセス条件検討
近年、プラスチック廃棄物が、環境破壊、地球温暖化、化石資源の枯渇など、生態系、地球環境への大きな負荷を与える原因となっている。この問題の解決手段の一つとして生分解性プラスチックの開発が挙げられ、植物由来の原料を炭素源とする微生物産生ポリエステル(PHA)系樹脂の開発が世界的に進んでいる。その中でも実用性の高いPHA系樹脂の一つとして、ポリ[(R)−3−ヒドロキシブチレート](P(3HB))が挙げられる。
一方で実用化に向けての課題がいくつかあり、P(3HB)系樹脂は結晶化速度が遅いため、固化に時間を要し生産性が悪くなる。また、ガラス転移温度が4℃と室温より低いため、室温保存中に二次結晶化が進行し、もろい材料となる欠点がある。特に溶融紡糸法により繊維を製造する場合には、繊維同士の膠着やロールへの貼り付きが発生することで安定した繊維の製造が難しく、得られた繊維の品質も低くなる。
この結晶化速度の遅さによる課題の解決手段としては、高速での引き取り速度による紡糸が実現できれば、生産性や繊維の物性共に非常に優れることが文献・特許などによりわかっているが、改善手段の詳細については明らかになっていない。
解決策:ベイズ最適化による解析・実験と重要特徴量による要因分析
本テーマでは、「ベイズ最適化の候補点から選択」のアプローチを活用することで、P(3HB)系樹脂樹脂紡糸性および生産性を向上させ引張強度を高める配合・紡糸の引取り速度条件の最適化を実施した。目的変数である製造工程のサクション性の向上と引張強度の最大化を目標として解析・実験のサイクルを合計3回実施した。(データ合計点数は初期17点、最終35点)
説明変数は、P(3HB)系樹脂2種、結晶核剤3種、滑剤3種と紡糸の引き取り速度とし、原料数制約機能を使ってP(3HB)系樹脂、結晶核剤、滑剤の各主剤・副剤の中で1種類以上選ぶ設定とした。その他に、制約条件として、P(3HB)系樹脂の配合量を合計100 wt%とし、結晶核剤と滑剤については効果が得られる上限量を考慮して結晶核剤はP(3HB)系樹脂の12 wt%以下、滑剤が10 wt%以下となるように設定した。
また「モデル選択と探索範囲分析による実験点選択」のアプローチを条件最適化と同時に実施し、「重要特徴量」の結果を元に各目的変数に影響しうる変数の考察を実施した。
結果:ベスト値の更新と目標達成の配合条件の獲得、要因分析による因子間関係性の可視化
「ベイズ最適化の候補点から選択」のアプローチで合計35点までデータ追加したところ、引張強度の最高値を更新し、かつサクション性もクリアできる配合・紡糸の引取り速度条件を獲得した。
また、「モデル選択と探索範囲分析による実験点選択」のアプローチでは、GP-standardのモデル精度が高く、得られた重要特徴量は従来の知見(サクション性については結晶化核剤Aと滑剤の影響が大きく、引張強度では滑剤Aの影響を受ける)と概ね一致する結果となった。加えて、従来の知見にはなかった滑剤Bについても、今回得られた重要特徴量では滑剤Aと同程度、引張強度に対する重要度が高く、さらに「ベイズ最適化の候補点から選択」により得られた実験候補点でも、滑剤AとBが同量に近い条件の場合は、引張強度が高い傾向が確認された。新規の知見獲得とともに、因子間の関係性を可視化することも可能となった。