課題:フォトレジストの微細パターン形成におけるトレードオフ

フォトレジストは半導体製造工程において、微細な回路パターンを形成するために不可欠な材料である。スマートフォンやパソコン、自動車といった多くの製品に使用される半導体デバイスの高容量化、小型化、高性能化を実現するため、フォトレジストには非常に高い要求性能が求められている。

フォトレジスト開発にはいくつかの課題が存在する。例えば、高感度化を進めると光反応の拡散が生じやすくなり、解像度が低下する。一方で、高解像度を追求すると感度が低下し、露光時間が長くなることにより生産性に悪影響を与える場合がある。また、エッチング耐性が不足している場合には、パターン形状の維持が難しくなり、結果として微細加工の歩留まりが低下する。このようなトレードオフを解消するためには、感度、解像度、エッチング耐性のすべてを満たす新しい組成の探索が不可欠である。

しかしながら、このような材料探索は膨大な組み合わせを試行する必要があり、従来の試行錯誤的アプローチでは限界がある。また、半導体需要の増加に伴い市場の急成長が予測される中で、開発スピードの高速化も重要な要素である。さらに、微細化に伴う光源の短波長化への対応や、PFASなどの環境規制への対策、加えて安定性や高品質化の実現といった多くの課題にも取り組む必要がある。これらの課題に対応するためには、従来の手法にとらわれない戦略的な開発アプローチが求められる。

図1 感度と性能のトレードオフ

解決策:ベイズ最適化と類似テーマのデータ活用による高速な条件探索

本テーマでは、フォトレジストの感度、解像度、性能、エッチング耐性の最適なバランスを実現するため、ベイズ最適化を活用した。特に、類似テーマのデータを活用することで、従来の条件探索に比べて大幅なサイクル短縮を達成した。

フォトレジスト開発では、半導体製造プロセスごとに異なるパターン形状、ピッチ、線幅に応じた組成の最適化が求められる。これらの条件は、しばしば非常に微細な変更を必要とし、例えば線幅のわずかな差異がパターン形成の精度や加工歩留まりに大きな影響を与える。そのため、それぞれのプロセスやパターンに合わせた詳細な調整が重要である。

今回は、過去の類似テーマのデータに対し、今回のテーマと異なる変数(例:線幅、膜厚)を追加することで1つの統合データセットを作成した。この統合データを使用することで、両テーマ間の相関性や共通性を予測モデルに学習させることが可能となった。また、過去データの活用有無によるモデル性能を比較した結果、データを結合した場合に予測精度が向上するだけでなく、重要特徴量の解析においても類似テーマ間の共通因子を特定できた。これにより、開発効率の向上とともに、新たな知見の発見が可能となった。

結果:高速かつ精度の高い条件探索の実現と新規知見の獲得

初期サイクルでは、データ不足領域の条件を中心にサンプルを選定し、ベイズ最適化を繰り返した。その後、予測モデルを作成し、重要特徴量の解析を実施した。これにより、各目的物性における重要検討因子を把握し、優先的に検討すべき因子についての考察を行った。また、データ密度の低い因子に対して物性値を活用し、密なデータへと変換したことで、予測精度や探索性能の向上を実現しただけでなく、光酸発生剤における重要因子も明らかになった。

さらに、過去の類似テーマのデータ活用や特徴量テーブルの活用による密なデータ生成を組み合わせることで、重要因子を抑えつつ適切な予測モデルを選択することが可能となった。サイクルを重ねるごとに、感度と性能のトレードオフを打開する新たな組成が発見され、効率的かつ戦略的な材料開発を実現した。

図2 特徴量テーブルを活用した密なデータへの変換