課題:低温粘度が低く、粘度指数が大きくなる潤滑剤組成の探索

内燃機関油、トランスミッション油、油圧作動油など向けに潤滑剤を開発している。

近年、気候変動問題への対応を背景とした開発が盛んである。特に、温室効果ガス削減のために自動車や建設機械などに対する燃費要求が厳しくなっている。これら機械に使われる潤滑油を低粘度化することで、機械内部での摩擦が減少し、エネルギーロスを抑制できる。その結果、燃費が向上し、CO2などの温室効果ガスの排出量削減を期待できることが広く知られている。しかしながら単に低粘度化すると液漏れなどの問題が生じ、潤滑油の温度に対する粘度変化を小さくする、つまり粘度指数を上げる必要があり、粘度指数向上剤などの添加剤が潤滑油に添加される。また、一般的な潤滑剤に使われる基油は鉱物油であるが、低温粘度が悪いという問題もあり、基油についても低温粘度が低く、粘度指数が大きくなる組成を探索する必要がある。すでに候補となる粘度向上剤および基油を絞り込んでおり、清浄剤、分散剤、酸化防止剤、消泡剤などの添加剤を含めた配合最適化を行う。

データ数は17点あり、粘度向上剤5種類、基油5種類(既存品の鉱物油含む)、添加剤10種類を説明変数とし、目的変数を低温粘度(-30℃)、粘度指数、動粘度(100°C)として最適化を実施した。

解決策:ベイズ最適化による解析・実験

本テーマでは、まず「ベイズ最適化の候補点から選択」のアプローチを用いてこれまでにない条件で良好な結果が得られる可能性について検討した。探索範囲は既存品の組成を参考にしつつ、妥当な範囲で拡大するため既存品の最大50%程度まで広げ、初期データを取得した。制約条件として選択した材料の配合量が全体で100となるように設定し、原料数制約を用いて商品化を考慮して粘度向上剤は5種類の中から1つ、基油は既存の鉱物油を除く4種類の中から1〜2種類選択されるように設定した。導出される候補点は10点とし、その中から研究者の知見により目標達成により近づきそうな点を5点選択し、実験を行うというサイクルを繰り返した。

結果:4サイクル実施した時点で目標を全て満たす配合条件を発見

「ベイズ最適化の候補点から選択」のアプローチで4サイクル回した時点で全ての目標を満たす配合条件を発見した。

4サイクル実施し、20点のデータセットを得て、合計37点のデータで「モデル選択と探索範囲分析による実験点選択」にてLASSOを含む回帰モデルを作成したところ、目的変数の一つである低温粘度(-30℃)の制度指標がまだ低く、重要特徴量と研究者の知見から改善の余地があることを確認した。また、モデル精度が0.5〜0.8程度の他の2つの目的変数、粘度指数、動粘度(100°C)についても添加剤の値を固定し、粘度指数向上剤と基油の値をベイズ最適化と同様の探索範囲で実験候補点を生成した。その結果、予測の値からまだ改善の余地がありそうなことを確認した。そのため、目標は満たしたものの、引き続きベイズ最適化にて、さらなる改善を目指して実験を継続する判断を行った。

予測モデルから得られた候補点の予測値とその実験点の実測結果