課題:成膜工程の開発コスト低減および安定的な開発への知見獲得

5Gを含む次世代の高速通信システムの性能向上において、高性能な圧電デバイスの開発が期待されている。圧電デバイスが機械的な振動を電気信号に変換する上で、半導体基板上の膜の品質が性能に直結するが、窒化アルミニウム膜は特に優れた材料として期待されている。
ScやYなどの添加元素を加えた窒化アルミニウム膜は、圧電特性の向上が期待できる一方で、結晶欠陥が増加しやすく、それにより圧電特性を損なうという課題もあった。スパッタリング成膜工程のプロセス条件を最適化することで欠陥を低減できるが、最適な条件を取得するまでに多くの試行回数が必要であるという課題があった。また、後の製造工程における因子制御のロバスト性を上げるため、単なる最適化だけではなく、因子の要因分析も必要とされていた。後工程での制御に大きく関係することから、試作段階における、因子間の関係性やメカニズムの理解が重要視されていた。

解決策:ベイズ最適化および探索範囲分析による考察

本テーマでは、「ベイズ最適化の候補点から選択」する方法と「モデル選択と探索範囲分析による実験点選択」を並行して活用することで、条件最適化と同時に因子制御に関する知見の獲得も効率的に実施した。

説明変数には、プラズマ生成で必要となるパルス電力とその周波数や幅など、あるいは成膜速度や膜の硬度などに影響するArガスやN2ガスの流量を使用した。目的変数である膜の欠陥密度や欠陥数を最小化する目標設定で解析・実験サイクルを合計5回実施した。
「ベイズ最適化の候補点から選択」アプローチにおける、各変数ごとの範囲最小値・最大値は研究者の知見を元に設定した。Ar流量は、90sccm以上利用することで目的変数が悪化しやすい傾向があるため今回は0〜90sccmの範囲で設定した。またArガスとN2ガスは混ぜて使用することはないため、2変数の内いずれか片方のみを使用する「原料数制約」を設定した。
また、3サイクル目では「モデル選択と探索範囲分析による実験点選択」アプローチを活用して、取得したデータを元にモデル(LASSO・GP-Standard)構築を行い、未実施の候補点での欠陥密度・欠陥数を予測した。この候補点の生成の仕方は柔軟に設定できるが、今回は過去実験点で最も目的変数が良い条件を元に、「重要特徴量」の順位が高いパルス周波数などを中心に範囲を指定して網羅的に条件を取得した。

予測モデル構築で得られた各変数の重要度

結果

種々の実験を繰り返す中で、過去の試行ではあまり実施しない意外な水準組み合わせが提案され、実際に実験した結果、新たな知見が発見できた。例えば、これまでパルス電力を増加させるほど単調に欠陥数を増加させてしまう傾向があると考えていたが、実際は、窒素流量も同様に多くすることで欠陥数の増加を抑えることができると確認できた。これは後工程でのロバスト性担保の観点から、社内でも重要な知見として高い価値を認識した。
各目的変数に対する重要特徴量、および得られた予測値のプロットから、因子制御に重要な知見が得られた。例えば、パルス周波数が欠陥に対して最も影響する因子であることが改めて解析結果からも裏付けられており、そのパルス周波数を探索範囲内で変動させた場合に130〜135kW付近で欠陥密度が目標範囲に収まる結果が確認できた。これらを元に、現在の最適条件からパルス周波数が10kWの範囲内で許容可能であると推測でき、後工程のロバスト性向上において重要な示唆が得られた。

このように、最適条件の取得だけではなく、多様な実験条件を実施することによる新たな知見獲得、あるいは、仮想シミュレーションによる探索範囲の分析も並行することで要因解析に活用できる知見が得られた。