課題:製造プロセスの最適化
共重合反応で製造される高分子の原料となる低分子モノマーは、重合反応の信頼性及び最終用途の品質・性能担保の観点から、高純度化が欠かせない品質項目である。バッチ生産のプラントでの生産において、溶媒晶析法による精製プロセスを行う際、使用する溶剤量を増やすほど得られるモノマーの純度は高くなるが、収率及び容積効率が悪くなり、収益性との両立が困難になることが課題である。また、目標の製品品質と収益性を両立する為に必要な粗生成物の純度の条件も求めなければならない。
解決策:予測モデルによる網羅的な製造条件探索
本テーマでは、「モデル選択と探索範囲分析による実験点選択」を活用することで、多目的を達成する良溶媒、貧溶媒の各配合条件の製造規格及び粗生成物に求められる純度に関する条件探索を行った。
各種良溶媒、貧溶媒及び温度、冷却速度を検討した晶析検討の実験データを用いて、予測モデル(LASSO回帰・ガウス過程回帰)構築を行い、未実施の候補条件での収率・重合性評価・容積効率を予測した。実施可能性のあるほぼ全ての条件を網羅的に予測し、その結果をプロット上で俯瞰しながら、目標を達成する良溶媒・貧溶媒の選定、またそれぞれの使用量の許容幅、また粗生成物の必要純度を定量的に求めた。
結果:プロセス条件検討の実験サイクル削減
構築した予測モデルの特徴から、収率・純度評価・容積効率に対する良溶媒・貧溶媒の種類の効果についての知見が得られた。例えば、トレードオフとなる収率と容積効率に対して、両取りできる溶剤の極性に関する情報、また特定の溶剤種を使用すると重合性評価が著しく悪化することが分かった。この結果は新たなる溶剤種やその他添加剤の選定にも有用であると期待できる。

有機合成プロセスのデータ蓄積:普遍性の高い単位工程ごとに区分して、データを蓄積することで活用の幅を広げることが可能になる
実施可能性のあるほぼ全ての条件を網羅的に予測した結果から、目標を全て達成する良溶媒・貧溶媒の選定、またそれぞれの使用量の許容幅、また粗生成物の必要純度を定量的な知見を得た。製造のために検証すべき条件を客観的・効率的に探索することにより、不要な実験検討を未然に削減することが可能になった。
今後は製造プロセス開発部門の他プロジェクトのデータをプロセスの単位工程ごとにデータを統合することで部署全体での開発速度を高めることに挑む。例えば晶析工程において、他の様々な化合物での晶析検討のデータを一つにまとめて予測モデルを構築することで新規基質に対しての晶析プロセスの逆設計を可能にしていく予定である。